2003年度の3年生皮膚科
:伊藤担当分講義のまとめ

2002年度の私の講義(計6回)
  1月28日(火)5限目(15:35〜16:50):皮膚良性腫瘍
  1月30日(木)1限目( 9:00〜10:15):皮膚良性腫瘍のつづきと皮膚形成外科
  2月3日(月)2限目(10:25〜11:40):皮膚形成外科
  2月4日(火)3限目(12:40〜13:55):難治性皮膚潰瘍の治療
  2月7日(金)3限目(12:40〜13:55):血管病変と皮膚潰瘍
  2月10日(月)3限目(12:40〜13:55):物理的障害

皮膚良性腫瘍
 皮膚良性腫瘍は全般的に重要ではありません。この項目で大切なのは、全身に影響のある場合や、悪性腫瘍と関連する項目です。

レーザー・トレラ症候群(Leser-Trelat syndrome)
 :短期間に脂漏性角化症が多発し、皮膚のかゆみを伴う。内臓悪性腫瘍の合併が多い。

ケ ラトアカントーマ
 :多くは1cm以下。自 然退縮することがある。稀に大きくなるものもある。有棘細胞癌との鑑別が難しいことがある。

ケロイド
 :餅を延ばしたような。紅色から褐色の腫瘍。側圧痛がある。好発部位は前胸部・肩・肩甲部など。原因不明と言われているが、小外傷や手術痕、ざ 瘡などが原因になっていることも多い。治療は手術ではなく、保存治療:ステロイドの局所注射など。

肥厚性瘢痕
 :ケロイドに似るが、キズの範囲を越えて広がらない。治療は手術(ケロイドとは治療方針がちがう)

単純性血管腫
 :レーザー治療

苺 状血管腫
 :国家試験の過去の問題では「経過観察」が正解。しかし現在はレーザー治療がよい。
 ※リンクの大西先生は私の知人でした。

グロームス腫瘍
 :爪基部にできやすい。さわると「飛び上がる程痛い」場合がある。

肥満細胞腫(色素性蕁麻疹)
 :症状:生後1年頃までに蕁麻疹発作を反複。全身(主に頚部、背部、胸部、腹部)に爪甲大までの赤褐色〜黄褐色の斑または丘疹が播種状に多発 (幼年型)。幼児型は成年までに治癒する場合が多く、成人型は難治性。急にかゆみが発生し膨疹(みみずばれ)ができるのが特徴。
 Darier徴候:強くこすると線状に膨疹を生じ(人工蕁麻疹)、かつ皮疹部で隆起が著し い。
摩擦や入浴をきっかけに膨疹、かゆみ、悪心、嘔吐、腹痛、呼吸困難、頭痛、けいれん、意識喪失、ショック症状などが現れることがある。リンパ節腫 脹、肝脾腫、骨異常を伴うこともある。
 

皮膚外科

真皮縫合目立 ちにくいキズにする縫合法(キズのできない縫合法ではない:手術をすれば必ず傷跡は残ります)

Z形成術:2点間の距離を延長するための局所皮弁・・・スポンジでみてもらった。
W形成術:術後の拘縮が少なく、整容的にも有利である。顔面(前額や頬部)の治療によい。
 

植皮:全層植皮と分層植皮がある。広範囲の植皮には分層採皮した皮膚を網目状にして用いるメッシュ植皮がある。
大切なのは、全層植皮と分層植皮の長所と短所

全層植皮は組織が厚く、生着しにくいが、生着すると拘縮や色素沈着が少なく、顔面の植皮に適 する。
分層植皮は組織は薄く、生着しやすいが、生着しても拘縮や色素沈着が起こりやすい。
メッシュ植皮は広い植皮が必要な場合に用い、広範囲熱傷への植皮がよい適応である。

植皮が応用できないところは、感染創や、骨・腱の露出部などである。
植皮失敗の原因には、感染、タイオーバーの過圧迫やズレ、植皮部位の虚血や植皮片が厚い場合があ る。

潰瘍(皮膚欠損)の治療
潰瘍が小〜大の治療法
小 単純縫合
  局所皮弁
  ティッシュエキスパンダー
大 植皮
  遊離皮弁(植皮できない場合)
 
 

難治性皮膚潰瘍

なかなか治らない皮膚潰瘍には、その局所以外に原因のあることが多い。

皮膚潰瘍のできる部位
 褥瘡は仙骨部、大転子部、踵部、肩甲部、後頭部。(足趾は多くない)、坐骨部(車椅子使用者に多 い)
 動脈性潰瘍(ASO・糖尿病性潰瘍)は足趾部、足部
 静脈性潰瘍は下腿(内果部や外果部)
に出来やすい。

動脈性皮膚潰瘍(虚血性潰瘍)

 糖尿病:糖尿病による易感染性と糖尿病性神経障害による知覚麻痺と閉塞性動脈硬化症の合 併によるものがある。

閉塞性動脈硬化症
 
動脈血栓塞栓による皮膚潰瘍:腹部大動脈瘤の壁在血栓や動脈硬化による動脈壁血栓が飛ぶことで足 部(足趾が多い)に生じる。

バージャー病

足部壊疽(潰瘍)の鑑別

末梢神経障害
(狭義の糖尿病性壊疽)
末梢循環障害
(閉塞性動脈硬化症)
糖尿病罹病期間 長期が多い 一定しない
糖尿病コントロール  不良 関係なし
前駆症状 外傷・熱傷・水疱 冷感・間欠性跛行
自覚症状 無痛性 有痛性
皮膚温 暖かい 冷たい
末梢動脈拍動 良好 減弱・消失
潰瘍所見 乾燥・角化・湿潤(感染)  境界鮮明・深い
発生部位 足趾・足背など多発 足趾尖端
予後治癒 良好、再発性 難治性
治療 保存的治療 血行再建・切断

静脈性皮膚潰瘍(うっ滞性潰瘍)
静脈性皮膚潰瘍
  静脈性潰瘍の原因

下肢静脈瘤の分類
 1次性下肢静脈瘤
  表在静脈である大または小伏在静脈そのものに原因のあるもの。
 2次性下肢静脈瘤
  大または小伏在静脈以外に原因(深部静脈血栓症など)があり、2次的に表在静脈が拡張し、これがバイパ スとなっているもの、など。

下肢静脈瘤の治療の適応
 静脈瘤が高度で将来合併症を起こす可能性のあるもの
 浮腫・皮膚炎・潰瘍など うっ血症状が著明なもの
 疼痛・易疲労感などの愁訴の強いもの
 静脈瘤の部分に血栓性静脈炎を繰り返すもの
 (美容上の適応)

現在の下肢静脈瘤治療
1次性静脈瘤のとき 
 硬化療法:高張食塩水・ポリドカノールの静脈内注入

 逆流静脈結紮・切離
 伏在静脈高位結紮+膝部結紮+不全交通枝結紮
 ストリッピング(鼡径から下腿1/2までの大伏在静脈抜去)
 
 保存的治療としては弾力ストッキングによる「圧迫療法」

2次性静脈瘤の治療は、圧迫療法が中心である。

静脈瘤の治療で大切なこと
 治療対象は1次性静脈瘤である。
 2次性静脈瘤と1次性静脈瘤の鑑別診断は難しい場合があり、「下肢静脈造影」などで深部静脈の開 存を確認して1次性であることを診断してから治療しなければならない。・・・・深部静脈が開存していないのに表在静脈を結紮したりストリッ ピングしたりすると下肢の静脈還流路が無くなり、重症の下肢うっ滞が生じるため。
 
 

物理的障害

 褥瘡
 なぜできるか?
  圧迫による局所循環障害。長期臥床患者(寝たきり)、脊髄損傷による知覚神経麻痺
 どこにできる?
  仙骨部、大転子部、踵部、肩甲部、後頭部。(足趾は多くない)
  坐骨部(車椅子使用者に多い)
 褥瘡について「最も大切なこと」 は・・・「予防」
  褥瘡予防マット、体位変換、荷重部マッサージなどにより局所循環障害を防ぐ。
 
 

熱傷の鑑別診断と治療
熱傷の局所症状
深度      症状 治療 治療上の注意点 後遺症
1度熱傷
(表皮熱傷) 
紅斑 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意 一過性色素沈着、色素脱失、瘢痕は残さない
2度浅層熱傷
(真皮浅層熱傷)
水疱 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意、水疱内容を吸引して外用 色素沈着、色素脱失を残すことあり。瘢痕は、ほとんど残らない。
2度深層熱傷
(真皮深層熱傷)
びらん  冷水で冷やし消毒外用 療法、人工被覆剤 感染に注意、しかし3度熱傷と同様となり、デブリドマン・植皮が必要となることも多 い。 感染せず治療できた場合でも、瘢痕を残して治癒。
3度熱傷
(皮下熱傷)
壊死・
蒼白
デブリドマン後に植皮 外用治療では治癒が難しいため、早期に植皮術を計画する。 そのままでは難治性潰瘍。植皮後は一般の植皮後と同様の瘢痕として残る。
4度熱傷 炭化 炭化部除去・切断 熱傷としての治療はできない 切断や広範囲の組織欠損となり、それによる後遺症が残る。

ポイント
2度浅層、2度深層、3度熱傷の鑑別診断が、極めて難しいことが多い。
熱傷深度で治療の方法が異なるため、正しく診断する必要がある。

低温熱傷
 熱傷の深さは「温度×時間」で決まる。よって比較的低い温度(アンカやヒーターの温風)でも長い時間作用 することで、熱傷を生じる。
 低温熱傷の方が深達度は深く、3度熱傷となり、デブリドマン・植皮術を必要とすることが多い。
 

熱傷瘢痕癌
 熱傷後の治癒が遅い(難治性潰瘍)場 合の瘢痕治癒後10〜40年の後に、瘢痕部に有棘細胞癌が生じることがある。この場合の治療(手術)は、通常の有棘細胞癌の治療と同様で、腫瘍摘出+植皮 術を行う。
 
 

放射線皮膚障害
 放射線治療まれに医療X線(患者の場合、医師の場合)、 事故により生じる。
急性放射線皮膚炎
 紅斑・浮腫・水疱・びらん、灼熱感・疼痛。数週〜数ヶ月後に色素異常・毛細血管拡張・永久脱毛を残して治 癒。線量が多いと急速に難治性潰瘍をつくる事がある。
 

慢性放射線皮膚炎:少量長期の時に多 い。
 (1)萎縮期:皮膚乾燥・小皺・光沢・色素異常・毛細血管拡張・脱毛・爪変化
 (2)角化期:肥厚硬化・イボ状角化
 (3)潰瘍期:自然に、または小外傷のキズが難治性潰瘍になる
 (4)癌化期:角化症・潰瘍からときに萎縮皮膚が癌化(有棘細胞癌)

治療:紅斑・浮腫・水疱・びらんには、皮膚炎に対する治療。角化には、鶏眼・胼胝と同様の治療。潰瘍 には、潰瘍治療(潰瘍用外用剤)。皮膚癌には、手術(摘出・植皮)
 
 

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