平成15(2003)年3年生皮膚科伊藤講義

物理的障害・・・ビデオ「熱傷後瘢痕癌に対するスライス臀部皮膚の植皮」

熱傷(やけど)
熱傷の局所症状
深度      症状 治療 治療上の注意点 後遺症
1度熱傷
(表皮熱傷) 
紅斑 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意 一過性色素沈着、色素脱失、瘢痕は残さない
2度浅層熱傷
(真皮浅層熱傷)
水疱 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意、水疱内容を吸引して外用 色素沈着、色素脱失を残すことあり。瘢痕は、ほとんど残らない。
2度深層熱傷
(真皮深層熱傷)
びらん 冷水で冷やし消毒外用療法、人工被覆剤 感染に注意、しかし3度熱傷と同様となり、デブリドマン・植皮が必要となることも多い。 感染せず治療できた場合でも、瘢痕を残して治癒。
3度熱傷
(皮下熱傷)
壊死・
蒼白
デブリドマン後に植皮 外用治療では治癒が難しいため、早期に植皮術を計画する。 そのままでは難治性潰瘍。植皮後は一般の植皮後と同様の瘢痕として残る。
4度熱傷 炭化 炭化部除去・切断 熱傷としての治療はできない 切断や広範囲の組織欠損となり、それによる後遺症が残る。

ポイント
2度浅層、2度深層、3度熱傷の鑑別診断が、極めて難しいことが多い。
熱傷深度で治療の方法が異なるため、正しく診断する必要がある。

低温熱傷
 熱傷の深さは「温度×時間」で決まる。よって比較的低い温度(アンカやヒーターの温風)でも長い時間作用することで、熱傷を生じる。
 低温熱傷の方が深達度は深く、3度熱傷となり、デブリドマン・植皮術を必要とすることが多い。
 

熱傷瘢痕癌
 熱傷後の治癒が遅い(難治性潰瘍)場合の瘢痕治癒後10〜40年の後に、瘢痕部に有棘細胞癌が生じることがある。この場合の治療(手術)は、通常の有棘細胞癌の治療と同様で、腫瘍摘出+植皮術を行う。
 

ビデオ「熱傷後瘢痕癌に対するスライス臀部皮膚の植皮」の解説

 熱傷後瘢痕に生じた有棘細胞癌に対して、植皮手術を行った例をビデオ供覧した。
 手術は鎮静剤前投薬後に局所麻酔下で施行した。

 潰瘍・角化した腫瘍辺縁から2〜3cm離して、脂肪層まで摘出し、その後瘢痕拘縮を解除するために、切開を延長した。

 通常、植皮のための採皮(皮膚を取ること)は、鼡径部や下腹部が普通(顔面への植皮は前胸部や耳後部)であるが、今回供覧した手術では、臀部から全層採皮して、同部は皮下(脂肪層)、真皮縫合、表皮縫合で単純縫縮(そのまま縫ってしまう方法)して、全層採皮皮膚をパジェット型の採皮器を用いて、適切な厚さにスライスして、それを摘出部に縫合し、タイオーバー用の糸(4ー0絹糸)を架け、ガーゼを置いて、タイオーバー固定した。
 プラスチックギプスで、膝関節を固定して手術を終了した。
 

電撃傷
通電による損傷。電気火花によるものは「熱傷」である。
熱傷に準じた治療を行うが、電流は血管(血液)を介して通電するため、電撃傷後の皮膚潰瘍への植皮は、同部が虚血状態となっていないかを評価する必要がある。
一般的に、電気が入った部より、抜けた部の皮膚の方が電撃傷が大きくなることが多い。
 
 
 
 

凍瘡(しもやけ)
比較的低温な冷たい環境に持続的にさらされることによって発生。季節の変わり目、特に気温が4〜5゜C、日内格差10゜C内外の時に生じやすい。
症状
寒い期間に手・足、耳、頬部の潮紅・腫脹、水疱・びらん・潰瘍になることあり。
一般に両則に対称的にできることが多く、暖まるとかゆみあり。
治療
末梢血管拡張剤の投与、かゆみが強いときはかゆみ止め、温浴、マッサージなど。
耳あて、手袋、靴下、靴など温かく、血行を妨げさせないものを身につけて治療、予防。
 
 

凍傷
凍傷は局所の寒冷暴露による障害で、末梢組織障害。2つの病態がある。
 (1)組織そのものが凍結して細胞が破壊されること
 (2)寒冷によって末梢小動脈が収縮し、血管内の血液が濃縮され血栓を起こすなどして起こる末梢の循環障害。よって、必ずしも0℃以下にならなくても生じる。
障害の程度(重症度)は熱傷に準じて1度〜4度に分類される。

治療
凍結した組織は融解が必要。末梢循環障害は、組織損傷の範囲を広げてしまうため循環が改善されるように血液凝固剤や末梢血管拡張剤を用いる。損傷組織は、熱傷に準じて治療(デブリドマン・植皮)。
 
 
 

放射線皮膚障害
 放射線治療まれに医療X線(患者の場合、医師の場合)、事故により生じる。
急性放射線皮膚炎
 紅斑・浮腫・水疱・びらん、灼熱感・疼痛。数週〜数ヶ月後に色素異常・毛細血管拡張・永久脱毛を残して治癒。線量が多いと急速に難治性潰瘍をつくる事がある。
 

慢性放射線皮膚炎:少量長期の時に多い。
 (1)萎縮期:皮膚乾燥・小皺・光沢・色素異常・毛細血管拡張・脱毛・爪変化
 (2)角化期:肥厚硬化・イボ状角化
 (3)潰瘍期:自然に、または小外傷のキズが難治性潰瘍になる
 (4)癌化期:角化症・潰瘍からときに萎縮皮膚が癌化(有棘細胞癌)

治療:紅斑・浮腫・水疱・びらんには、皮膚炎に対する治療。角化には、鶏眼・胼胝と同様の治療。潰瘍には、潰瘍治療(潰瘍用外用剤)。皮膚癌には、手術(摘出・植皮)

予防:医療者として患者と自分自身への予防を考える:X線検査、RIシンチクラム(心筋シンチグラフィ:塩化タリウム)
 
※放射線治療後の皮膚に皮膚癌が生じることがあるが、皮膚癌の治療に放射線治療を行うことがある。
※良性疾患には、放射線治療を行わない(血管腫・ケロイドなど)
 

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