下肢静脈瘤のページ
兵庫医科大学皮膚科学教室 伊藤孝明   
医師向けのページ・・・ドプラ聴診器使用のすすめ (1999年に作成したページ)
下肢静脈瘤について
 下肢静脈瘤の治療が再び注目を浴びようとしています。
 それは平成18年12月14日にゼリア新薬から保険適応の硬化剤「ポリドカスクレロール」が発売されたから、というのがあります。
 おそらく、今後テレビ・ラジオやその他のマスコミで盛んに情報が出てきますが、きっと怪しい内容も含まれると思いますので、その辺のところをここに記載 していきます。

はじめに
 おおよそですが、40歳以降の女性の5人に1人は、小さいものも含めると下肢静脈瘤があると思います。
 多くは、皮膚の表面の細かい静脈が透けてみえる、や、わずかに静脈がふくれているといったものだと思いますが、立ち仕事に従事している人では100人に 1人くらいは治療が必要な静脈瘤かもしれません。
 例えば、医療従事者(医師やナース)、美容・理容従事者、飲食業などの立ち仕事では、そのくらいの割合だと思っています。

治療適応は
 美容目的を除くと、立位で静脈の拡張・蛇行のある肢、下腿に湿疹・潰瘍のあるもの、こむら返りが1回/月以上ある場合、夕方に下腿の浮腫やだるさの強い 場合が治療適応です。

検査は
 少なくとも、ドプラ聴診器が必要です。伏在静脈での静脈逆流の有無、バルサルバ負荷(腹圧をかける)で静脈逆流があるかをドプラ聴診器で聴いて検査しま す。
 深部静脈の開存の確認が必要ですので、超音波断層装置などが必要です。

治療選択は
 まずは、圧迫ストッキングです。
 ドプラ聴診で、明らかな伏在静脈逆流があれば、高位結紮術以上の手術治療は必要になります。手術治療が必要な静脈瘤に対して、硬化療法のみの治療はすべ きでないと思いますので、詳しい検査が必要です。


以下、下肢静脈瘤についての過去の記載
下肢静脈の解剖と静脈灌流

 下肢の主な静脈は、深部静脈系(右図灰色)と表在静脈(右図白色)から成る。

 深部静脈系は、下腿静脈(前脛骨静脈・腓骨静脈・後脛骨静脈)〜膝窩静脈〜浅大腿静脈である。
 表在静脈系は、大伏在静脈と小伏在静脈およびその枝である。

 下肢の静脈血は、筋肉による圧迫と、多くの静脈弁の働きで心臓側に押し出される(筋ポンプ作用:俗に足は第二の心臓と言われることもある)。

 正常肢では、下肢の静脈血のほとんどは、深部静脈系を介して心臓に還る。
 表在静脈内にある静脈血は、交通枝を介して深部静脈に流れ込むか、大伏在静脈から大腿静脈へ、または小伏在静脈から膝窩静脈に流れ、心臓側に還ってい く。
 正常(深部静脈が開存しているとき)肢では、表在静脈である大および小伏在静脈を、取り去っても、足の静脈灌流には障害はおこらない。
 たとえば、狭心症で冠状動脈に狭窄があって「大動脈−冠動脈バイパス」を行う場合や末梢動脈閉塞に対するバイパス術では、伏在静脈を摘出して、これをバ イパス血管として利用するが、深部静脈が開存していれば、下肢静脈灌流に障害は生じない。

下肢静脈瘤の分類
 1次性下肢静脈瘤
  表在静脈である大または小伏在静脈そのものに原因のある もの。
  1次性下肢静脈瘤の形(多くは1つの形だけでなく混在 している)
    伏在型静脈瘤:伏在静脈が太くなっているか蛇行している
   側枝型静脈瘤:伏在以外の静脈が 孤立性に太くなったり蛇行している
   網目 状静脈瘤:2〜3mmの静脈が青く網目状にみえている
   クモの巣状静脈瘤:1mm以下の 細かい静脈がみえている

 2次性下肢静脈瘤
  大または小伏在静脈以外に原因(深部静脈血栓症など)があり、2次的に表在静脈が拡張 し、これがバイ パスとなっているもの、など。

1次性下肢静脈瘤の主な成因
  表在静脈弁不全 : 多くの場合表在静脈(伏在静脈)の弁不全が原因
  交通枝弁不全
  静脈壁の脆弱化
  AVシャント説
  その他


伏在静脈が逆流している下肢静脈瘤を放置すると、将来的に、下腿潰瘍(大伏在 静脈逆流の場合は、内果上部に、小伏在静脈の場合は外果上部に、両方の場合は下腿のした1/3の全周性に)が生じたり、うっ滞性皮膚炎が生じる可能性があ る。
生活習慣の欧米化(畳ではなく、机&イスの生活)や高齢者人口の増加に伴って、今後増加する疾患である。


下肢静脈瘤の治療の適応
 静脈瘤が高度で将来合併症を起こす可能性のあるもの
 浮腫・皮膚炎・潰瘍など うっ血症状が著明なもの
 疼痛・易疲労感などの愁訴の強いもの
 静脈瘤の部分に血栓性静脈炎を繰り返すもの
 (美容上の適応)

現在の下肢静脈瘤治療
 網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤の治療
 硬化療法:高張食塩水・ポリドカノールの静脈内注入

 側枝型静脈瘤の治療 
 逆流静脈結紮・切離+必要に応じて硬化療法

 伏在型静脈瘤の治療 
 伏在静脈高位結紮+膝部結紮+不全交通枝結紮
 ストリッピング(鼡径から下腿1/2までの大伏在静脈抜去)
   上記治療を行い約1ヶ月経過観察の後、残存する瘤に対して「硬化療法」を行う。
  伏在型には「硬化療法」のみの治療は行わない。行うべきではない。
  上記治療後は必ず圧迫療 法を行う。

保存的治療:圧迫療法=弾性ストッキング・弾性包帯で





下肢静脈瘤治療の不適応・禁忌 または保存的治療を選択すべき状態
 
 手術に耐えられない高齢者や重篤 な全身合併症、シャントを有する心疾患患者など

   下肢静脈瘤は良性疾患なので、全身状態をみて手術を行うべきか、保存治療(圧迫療法)すべきかを決める必要がある。
   絶対に治療しなければならない、という病気ではないため。

  静脈瘤が静脈還流路となっている 場合(2次性静脈瘤)や深部静脈血栓症やその既往のある人
   硬化療法や手術治療の対象となるのは、1次性下肢静脈瘤であり、2次性下肢静脈瘤は治療選択が難しい。
   2次性下肢静脈瘤でも、皮膚潰瘍があり、その潰瘍部位に静脈の逆流が及んでいる場合は、その逆流を阻止する目的での手術はよいと考える。

 閉 塞性動脈硬化症などの下肢動脈閉塞性疾患
 
 治療部位に化膿性・感染性病変の ある場合

 妊娠中など一過性 の静脈瘤の可能性のある場合

 硬化 療法の不適応: いわゆる尖端恐怖症傾向の人運動制限のある下肢
 

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