4年生皮膚科講義:伊藤担当分について

2002年1月の講義の予定
 

私の4年生3学期の講義は2回だけです。
試験などについては、後日ネットで公開します。
質問は、いつでもメールで受け付けます。医局内のアドレスへ
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4年3学期の伊藤担当分「??」のページへ
 

覚えておくべき項目
5.皮膚科の手術の特徴
 7.縫合法・・・真皮縫合
 8.植皮(遊離植皮)
 9.分層植皮
10.全層植皮
11.植皮(採皮)のまとめ
13.局所皮弁
 Z形成術
 W形成術
17.熱傷の分類・治療
 熱傷瘢痕癌

皮膚外科

内容
1.外科と皮膚科
 歴史的には、体表外科が外科であった。
 しかし麻酔法の進歩により外科は、腹腔、胸腔、頭蓋内に到達して治療を行うようになった。
 その結果、体表外科については、どの外科系診療科もその専門分野ではなくなってきている。
 皮膚外科は、その体表外科を専門とする分野である。

2.皮膚外科とは
 体表外科、皮膚腫瘍外科などの、外科的手技を必要とする皮膚疾患の治療分野である。
 標榜診療科名としては認められていない。
 「皮膚腫瘍、母斑、瘢痕その他皮膚科の知識をもって治療にあたるべき疾患の外科的治療分野」と定義した。
 日本皮膚外科学会のホームページへ
 現在の皮膚科学の中での「皮膚外科」は、上記のような、「皮膚科の外科分野」と、美容外科的な治療分野の2つがある。

3.形成外科・美容外科との違い
 「形成外科」と「美容外科」は標榜診療科として認められた診療科名である。
 形成外科は、醜形を修正する外科・再建外科であり、美容外科は正常を改造する外科である。
 皮膚外科では、形成外科・美容外科的手技を用いて、皮膚疾患の治療を行っているが、最も異なる点は、皮膚科学的または皮膚病理学的な知識をもとに治療を行うと言う点で、この2者とは異なる。
 
4.皮膚に使う手術器械と糸針について
 一般外科に比べて、非常に小さい手術器械を用いる。
 縫合に使う糸や針は、やはり小さい。
 糸:編糸と単糸がある。編糸の代表は「絹糸」である。皮膚の縫合では、絹糸はほとんど用いない。絹糸に似た「ボリエステル」の編糸を用いる。
   単糸には、合成糸が多く、その代表にナイロン糸やポリプロピレン糸がある。
   糸のその他の分類として、吸収糸と非吸収糸がある。絹糸・ボリエステル糸・ナイロン糸・ポリプロピレン糸などは、非吸収糸である。

 針:丸針と角針がある。丸針は皮下縫合に用いる。角針は皮膚縫合に用いる。角針の特殊なものに「植皮針」があり植皮術で使用する。

5.皮膚科の手術の特徴
 皮膚科の手術と他の外科の手術の違いは、部位が体表にあるため、「傷跡が判る」ことである。
 例えば皮膚癌を摘出したら、取り終えて皮膚欠損ができた状態で、その目的は達成しているが、そのままでは日常生活に支障を来すことが多い。
 傷跡を気にされる患者さんも多い。
 醜形を最小限にして必要な手術を行うことが要求される。

6.手術の流れ
 当科では、局所麻酔で行える手術は、局所麻酔で行うことを基本としている。(局所麻酔で行える限度を超えている場合や全身麻酔、腰椎麻酔、硬膜外麻酔を選択する方が安全な場合はこれらの麻酔を選択する)

 手術部分を消毒する。
 皮膚切開の計画(デザイン)を描く。
 主にエピネフリン加の1%リドカイン局所麻酔剤を必要部位に局所注射する。
 15番メス(一般的なものとしては一番小さいメス)で、皮膚切開し手術を行う。・・・皮膚腫瘍摘出など
 止血を行う。主に電気メスで凝固する。明らかな動脈性出血では細い絹糸(3-0絹糸など)を用いて結紮止血する。
 皮下縫合し、真皮縫合し、表皮縫合を行う。

7.縫合法・・・真皮縫合
 皮膚外科(形成外科)での最も特徴的な縫合法のひとつに「真皮縫合」がある。
 縫合痕(傷跡)を「目立ちにくく」縫う縫い方である。
  手技については講義で紹介するが、一言で言うと皮膚を皮膚の裏側(真皮側)から透明な細い糸で盛り上げて縫う手技である。用いる糸は非吸収糸であり、この糸はずっと残すことになる。そのため、この縫合を用いる部位と用いてはいけない、または用いるべきではない部位がある。
 顔面の皮膚縫合には真皮縫合を用いることは多いが、眼周囲には使わない。手掌や足底の皮膚縫合においても用いない。
 これらの用いない部位に行った場合は、糸の異物感がいつまでも残ることがある。
 
8.植皮(遊離植皮)
 単純縫合(そのまま縫い合わせる縫合)ができない範囲の皮膚欠損に対しては、植皮(皮膚移植)を行う。
 ドナーとなる皮膚は、本人の皮膚を用いる。(広範囲熱傷に対する同種皮膚移植以外は)

植皮の種類(採皮法の違い)
 採皮の方法により大きく2つに分ける
 全層植皮と分層植皮である。

9.分層植皮
 分層植皮は主に、比較的広範囲な皮膚欠損に対しての植皮に用いる。
 採皮器(デルマトーム)を用いて、皮膚をスライスして取る。一般的にはパジェット型デルマトームという採皮器で採皮する。
 そのほかの方法としては、電動式デルマトームや気動式デルマトームも用いられる。電動式または気動式は、電気バリカンをイメージしてほしい。先端にモーターまたは高圧ガスで高速に左右に動く刃が付いていて、これで皮膚を採皮していく。
 他に、「極普通の片刃カミソリ」を消毒して採皮器具として用いることも多い。広範囲熱傷に対する植皮では、広い面積の薄い皮膚が必要であるため、カミソリを用いることが多い。
 分層採皮の皮膚の厚さは、表皮と真皮の一部を含む厚さである。
 分層採皮された部分の皮膚は、真皮が剥きだしの状態であるが、真皮部分にも表皮細胞があり、この表皮細胞から表皮が再生してくることで、表皮化し浅い瘢痕を残して治癒する。真皮部分の表皮細胞とは、主に毛包部分の表皮細胞である。
 分層採皮の採皮部は通常は大腿部を選ぶが、どこからでも採皮できる。例えば広範囲熱傷患者では、採皮できる部位が限られる場合もあるが、短く散髪したあとの頭皮からカミソリで採皮することもある。
 小さい採皮でより広い面積を植皮する必要がある場合は、分層採皮した皮膚を網状にして植皮することもある。これをメッシュ植皮という。

10.全層植皮
 全層植皮は主に、比較的小さい範囲、または皮膚の特徴を生かしたい場合に選択する植皮法である。
 よって、顔面や露出部の皮膚欠損には全層植皮が一般的である。その他関節部にも用いる。
 全層植皮の採皮は、皮膚を全層(表皮と真皮)にとる。当然全層採皮部は、分層採皮部の様に表皮化しない。全層採皮部はそのまま縫合できる範囲で採皮しなければならない。
 全層での採皮に適する部位は、顔面の皮膚欠損には、耳後部や鎖骨部がよい。一般的には、下腹部から鼡径部にかけての部位を選ぶことが多い。耳後部から採皮して単純縫合できる範囲は大人で最大6×4cm、一般的には5×3cm程度の紡錘形である。鎖骨部皮膚は10×5cm程度の採皮は可能である。
 下腹部から鼡径部では、年齢や体型によるが20×10cmの面積が得られる場合もある。
 
 採皮は、本人の皮膚であればどこからでも良いが、植皮を行う部位の皮膚に似た性質の皮膚を用いるのが一般的である。前出の顔面には、耳後部や鎖骨部以外では、手掌足底皮膚には、足底の土踏まずの皮膚を選ぶことが多い。例えば踵部の腫瘍摘出後には、土踏まず皮膚の全層植皮が一般的である。

 ちなみに、植皮は100%生着するとは限らない。

11.植皮(採皮)のまとめ
 分層植皮は、全層植皮に比べて薄いため、生着しやすい。しかし生着後に縮む(拘縮する)、色素沈着が起こる、という短所がある。
 一方、全層植皮は、厚く生着しにくいが、生着後の拘縮は少なく、色素沈着が少ない。顔面や露出部、関節部などに好んで用いられる。

 生着し易い、し難い、については、植皮部の状態や植皮術後の安静度によるところが多いが、術者の技量も大きく関係する・・・当たり前のことだが。

植皮が行えない部位
 骨や腱の露出した部、感染創など。

12.植皮の方法
 外傷や熱傷、腫瘍摘出後の皮膚欠損に対して、植皮を行う。
 皮膚欠損部を整え、消毒する。
 採皮した皮膚を、欠損部の形に合わせて、固定する。植皮皮膚の辺縁は、植皮針と細い絹糸を用いて縫合する。縫合した絹糸が切らずに、これを用いてタイオーバー固定する。
 タイオーバーの詳細については、講義で解説する。
 

1月7日の講義はこのへんで、時間切れとなった。
若干重複するが、ここから下が1月21日の講義分
 

皮弁
13.局所皮弁
 単純縫合するには、皮膚欠損が大きい場合で、植皮するほどでもない場合は、皮膚欠損部の近くの皮膚を動かして、皮膚欠損を再建する方法である。または、植皮が行えない骨や腱の露出した部にも応用する。
 局所皮弁にはいろいろな方法があり、これも講義で説明する。

 局所皮弁の中では、Z形成術と言って、2点間の距離を延長させるための局所皮弁などもある。

 W形成術という縫合創を目立ちにくく縫合する手技もある。

ティッシュエキスパンダーを用いた局所皮弁
 通常の局所皮弁では再建できない皮膚欠損に対し、皮膚欠損部近くの皮膚を延ばして、その延ばした皮膚を用いて局所皮弁を作る手技である。
 具体的には、皮膚欠損となる部分をあらかじめ想定し、その近くの皮下に「シリコンで作られた袋」=ティッシュエキスパンダーを入れ、この中に「生理食塩水」を入れて袋を膨らませて、皮膚を延ばす。
 手術は2回必要となる。
 一回目の手術で、シリコンの袋=ティッシュエキスパンダーを皮膚欠損となる部の近傍の皮下に埋める。
 約2ヶ月間2週間に1度の割合で、その中に生理食塩水を追加していく。ティッシュエキスパンダー上の皮膚は伸展されていく。
 2ヶ月程度後に、それを取り出して、伸びた皮膚で局所皮弁を作成して、同時に摘出した皮膚欠損を覆う。

14.遊離皮弁
 深い皮膚欠損や、植皮や局所皮弁が行えない部位に応用する。
 特定の部位の皮膚は、1本の動脈と1〜2本の静脈で栄養されている。この皮膚・皮下組織と栄養血管を採取し、皮膚欠損部近くの動静脈と手術用顕微鏡を用いて、微小血管吻合して、大きく厚い皮膚も移植できる方法。
 吻合する血管の太さは、1〜2mmである。
 

皮膚腫瘍の手術治療

15.皮膚悪性腫瘍の治療

皮膚悪性腫瘍の治療は、その組織型によって異なる。
有棘細胞癌、乳房外パジェット病、悪性黒色腫など、多くの皮膚悪性腫瘍では、腫瘍の視診・触診による辺縁から3cm程度離して、皮下組織を含めて摘出する。
摘出によって生じた皮膚欠損は、前述の植皮術を行う。
ただし、その部位によって、植皮ができない場合や、植皮によって生活上の制限が生じる場合などは、皮弁(局所皮弁・遊離皮弁)を行う。

基底細胞癌や表皮内癌では、腫瘍辺縁から3〜5mm離して摘出し、局所皮弁または植皮を行う。

リンパ節廓清術
皮膚悪性腫瘍で、所属リンパ節の腫脹がみられる場合、リンパ節生検を行い組織診断で、リンパ節転移を診断するか、または局所所見や触診で転移と診断できる場合は、リンパ節廓清術を行う。
リンパ節転移の診断には、CT・MRI、腫瘍シンチ検査等を併用する。
ただし、皮膚悪性腫瘍に対して、全例にリンパ節廓清を行うわけではない。
一般的に、下肢や陰部に生じた皮膚悪性腫瘍では、鼡径リンパ節廓清を、上肢に生じた場合は腋窩リンパ節廓清を行う。
予防的リンパ節廓清は、基本的には行わないが、組織型、進展度を考慮した上で、その適応を決めている。

16.皮膚良性腫瘍の治療

皮膚良性腫瘍の手術治療は、腫瘍を完全摘出できる最小範囲で切除することを基本とする。
出来る限り縫合創は、皮膚割線の方向に一致させる様に努力している。
 

熱傷

皮膚科では、熱傷局所の診断・処置についての講義を行います。
広範囲熱傷の全身管理や気道熱傷などについては、救急医学で講義があると思いますので、省略します。

17.熱傷の分類・治療
熱傷の深さによって分類する。
 
分類      症状 治療 治療上の注意点 後遺症
1度熱傷
(表皮熱傷) 
紅斑 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意 一過性色素沈着、色素脱失、瘢痕は残さない
2度浅層熱傷
(真皮浅層熱傷)
水疱 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意、水疱内容を吸引して外用 色素沈着、色素脱失を残すことあり。瘢痕は、ほとんど残らない。
2度深層熱傷
(真皮深層熱傷)
びらん 冷水で冷やし消毒・外用療法、人工被覆剤 感染に注意、しかし3度熱傷と同様となり、デブリドマン・植皮が必要となることも多い。 感染せず治療できた場合でも、瘢痕を残して治癒。
3度熱傷
(皮下熱傷)
壊死・
蒼白
デブリドマン後に植皮 外用治療では治癒が難しいため、早期に植皮術を計画する。 そのままでは難治性潰瘍。植皮後は一般の植皮後と同様の瘢痕として残る。
4度熱傷 炭化 炭化部除去・切断 熱傷としての治療はできない 切断や広範囲の組織欠損となり、それによる後遺症が残る。

ポイント
2度浅層、2度深層、3度熱傷の鑑別診断が、極めて難しいことが多い。
ところが、それぞれで治療の方法が異なるため、正しく診断する必要がある。

低温熱傷
熱傷の深さは「温度×時間」で決まる。よって比較的低い温度(アンカやヒーターの温風)でも長い時間作用することで、熱傷を生じる。
この低温熱傷の方が深達度は深く、3度熱傷となり、デブリドマン+植皮術を必要とすることが多い。

熱傷瘢痕癌
熱傷後の治癒が遅い(難治性潰瘍)場合の瘢痕治癒後10〜40年の後に、瘢痕部に有棘細胞癌が生じることがある。この場合の治療(手術)は、通常の有棘細胞癌の治療と同様で、腫瘍摘出+植皮術を行う。

電撃傷
通電による損傷。電気火花によるものは「熱傷」である。
熱傷に準じた治療を行うが、電流は血管(血液)を介して通電するため、電撃傷後の皮膚潰瘍への植皮は、同部が虚血状態となっていないかを評価する必要がある。
一般的に、電気が入った部より、抜けた部の皮膚の方が電撃傷が大きくなることが多い。

凍傷
いわゆる「しもやけ」

凍傷
熱傷に準じて1〜4度に分類される。
治療
徐々に加温し、その後の状態に対しては、熱傷の各深達度と同様の治療を行う。
 

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ネットで公開できることはすべて公開します。
講義では、実際の手術のスライドやビデオを見てもらいます。
講義プリントも用意することにしました。
 

患者さん向けの説明のページにリンク
皮膚良性腫瘍
下肢静脈瘤
皮膚潰瘍
物理的障害
外傷
熱傷
褥瘡
 

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