4年生皮膚科の試験内容について

伊藤担当分は講義2回分で、問題は2問。

数問の中から 好きな物を選んで解答するタイプの筆記問題が 僕は好きです。
勉強した量と内容が 一番 良く反映出来るのではないか、と思いますので。
・・・とのメールを頂きましたが、これだと採点が厳しくなりそうですね。

試験形式なのですが、やはり基本的には( )埋めが希望です。
ただ、誰かの意見にあった、「数問から選択して記述で答える」というのも私は好きです。
でもあくまで何かしら必死で書こうとしている学生の心意気を買って、優しく採点してくださるなら、いいと思います。
・・・優しく採点はしません。あなたがたが、志を貫くならば、近い将来に厳しい試験にパスしなければならないわけですから、今厳しいことが将来どんなに役立つか、私はとてもよく知っている一人だからです。

皮膚科の試験は婦人科と同じ日にあるので、勉強が追いつかなくなった学生は、どちらか捨ててしまわざるを得ない状況に追い込まれます。
どうか4年生の範囲を一日に複数科目受験するこの厳しさに、ご理解の程をお願いします。
・・・なるほど・・・・。21年前?の私も同じだったことを思い出してしまった。

私の出題する問題数は2問。
1問は(  )入れ式、2問目は記述式に決定。
(  )入れ式に15点、記述式に5点の配点にしました。

このページは、試験前日までは、1日に1回はチェックすることをお勧めします。

質問は、いつでもメールで受け付けます。 自宅のアドレスへ

覚えておくべき項目:いわゆるヤマ
赤字で、字が大きいほど大切なところです。

皮膚外科

6.手術の流れ
 当科では、局所麻酔で行える手術は、局所麻酔で行うことを基本としている。(局所麻酔で行える限度を超えている場合や全身麻酔、腰椎麻酔、硬膜外麻酔を選択する方が安全な場合はこれらの麻酔を選択する)

 手術部分を消毒する。
 皮膚切開の計画(デザイン)を描く。
 主にエピネフリン加の1%リドカイン局所麻酔剤を必要部位に局所注射する。・・・エピネフリンの血管収縮作用により局所出血を抑えながら手術が行えるようにするためである。
 15番メス(一般的なものとしては一番小さいメス)で、皮膚切開し手術を行う。・・・皮膚腫瘍摘出など
 止血を行う。主に電気メスで凝固する。明らかな動脈性出血では細い絹糸(3-0絹糸など)を用いて結紮止血する。
 皮下縫合し、真皮縫合し、表皮縫合を行う。

7.縫合法・・・真皮縫合
 皮膚外科(形成外科)での最も特徴的な縫合法のひとつに「真皮縫合」がある。
 縫合痕(傷跡)を「目立ちにくく」する縫い方である。
 皮膚を皮膚の裏側(真皮側)から透明な細い糸で盛り上げて縫う手技
 用いる糸は非吸収糸であり、この糸はずっと残すことになる。
 そのため、この縫合を用いる部位と用いてはいけない、または用いるべきではない部位がある。
 顔面の皮膚縫合には真皮縫合を用いることは多いが、眼周囲や手掌や足底の皮膚縫合に真皮縫合は用いない。
 これらの用いない部位に行った場合は、糸の異物感がいつまでも残ることがある
 
8.植皮(遊離植皮)
 単純縫合(そのまま縫い合わせる縫合)ができない範囲の皮膚欠損に対しては、植皮(皮膚移植)を行う。
 ドナーとなる皮膚は、本人の皮膚を用いる。(広範囲熱傷に対する同種皮膚移植以外は)・・・他人の皮膚は生着しない
なぜ、広範囲熱傷で他人の皮膚を用いるのか、というと、同種皮膚は、最高の被覆材料であるから、広範囲熱傷は免疫低下状態であり、短期間は生着していて、その後に脱落する。

植皮の種類(採皮法の違い)
 採皮の方法により大きく2つに分ける
 全層植皮と分層植皮である。

9.分層植皮
 分層植皮は主に、比較的広範囲な皮膚欠損に対しての植皮に用いる。
 採皮器(デルマトーム)を用いて、皮膚をスライスして取る。一般的にはパジェット型デルマトームという採皮器で採皮する。
 そのほかの方法としては、電動式デルマトームや気動式デルマトームも用いられる。電動式または気動式は、電気バリカンをイメージしてほしい。先端にモーターまたは高圧ガスで高速に左右に動く刃が付いていて、これで皮膚を採皮していく。
 他に、「極普通の片刃カミソリ」を消毒して採皮器具として用いることも多い。広範囲熱傷に対する植皮では、広い面積の薄い皮膚が必要であるため、カミソリを用いることが多い。
 分層採皮の皮膚の厚さは、表皮と真皮の一部を含む厚さである。
 分層採皮された部分の皮膚は、真皮が剥きだしの状態であるが、真皮部分にも表皮細胞があり、この表皮細胞から表皮が再生してくることで、表皮化し浅い瘢痕を残して治癒する。真皮部分の表皮細胞とは、主に毛包部分の表皮細胞である。
 分層採皮の採皮部は通常は大腿部を選ぶが、どこからでも採皮できる。例えば広範囲熱傷患者では、採皮できる部位が限られる場合もあるが、短く散髪したあとの頭皮からカミソリで採皮することもある。
 小さい採皮でより広い面積を植皮する必要がある場合は、分層採皮した皮膚を網状にして植皮することもある。
これをメッシュ植皮という。

 当然、分層植皮用の皮膚が薄い、全層植皮用の皮膚は厚い。

10.全層植皮
 全層植皮は主に、比較的小さい範囲、または皮膚の特徴を生かしたい場合に選択する植皮法である。
 よって、顔面や露出部の皮膚欠損には全層植皮が一般的である。その他関節部にも用いる。
 全層植皮の採皮は、皮膚を全層(表皮と真皮)にとる。当然全層採皮部は、分層採皮部の様に表皮化しない。全層採皮部はそのまま縫合できる範囲で採皮しなければならない。
 全層での採皮に適する部位は、顔面の皮膚欠損には、耳後部や鎖骨部がよい。
 一般的な植皮には、下腹部から鼡径部にかけての部位を選ぶことが多い。耳後部から採皮して単純縫合できる範囲は大人で最大6×4cm、一般的には5×3cm程度の紡錘形である。鎖骨部皮膚は10×5cm程度の採皮は可能である。
 下腹部から鼡径部では、年齢や体型によるが20×10cmの面積が得られる場合もある。
 
 採皮は、本人の皮膚であればどこからでも良いが、植皮を行う部位の皮膚に似た性質の皮膚を用いるのが一般的である。前出の顔面には、耳後部や鎖骨部以外では、手掌足底皮膚には、足底の土踏まずの皮膚を選ぶことが多い。例えば踵部の腫瘍摘出後には、土踏まず皮膚の全層植皮が一般的である。

 ちなみに、植皮は100%生着するとは限らない。

 当然、分層植皮用の皮膚が薄い、全層植皮用の皮膚は厚い。

11.植皮(採皮)のまとめ
 全層植皮に比べて薄いため分層植皮は、生着しやすい。
 しかし生着後に縮む(拘縮する)、色素沈着が起こる、という短所がある。

 一方、全層植皮は、厚く生着しにくいが、生着後の拘縮は少なく、色素沈着が少ない。
 よって全層植皮は、顔面や露出部、関節部などに適している。

 生着し易い、し難い、については、植皮部の状態や植皮術後の安静度によるところが多いが、術者の技量も大きく関係する・・・当たり前のことだが。

植皮が行えない部位
 の露出した部や感染創などには植皮は適さない。

12.植皮の方法
 外傷や熱傷、腫瘍摘出後の皮膚欠損に対して、植皮を行う。
 皮膚欠損部を整え、消毒する。
 採皮した皮膚を、欠損部の形に合わせて、固定する。植皮皮膚の辺縁は、植皮針と細い絹糸を用いて縫合する。縫合した絹糸が切らずに、これを用いてタイオーバー固定する。
 タイオーバーの詳細については、講義で解説しました。
 
 

皮弁
13.局所皮弁
 単純縫合するには、皮膚欠損が大きい場合で、植皮するほどでもない場合は、皮膚欠損部の近くの皮膚を動かして、皮膚欠損を再建する方法である。または、植皮が行えない骨や腱の露出した部にも応用する。
 局所皮弁にはいろいろな方法があり、これも講義で説明した。

 局所皮弁の中では、Z形成術と言って、2点間の距離を延長させるための局所皮弁などもある。

 W形成術という縫合創を目立ちにくく縫合する手技もある。・・・前額部の手術例を講義で見て頂いた。

ティッシュエキスパンダーを用いた局所皮弁
 通常の局所皮弁では再建できない皮膚欠損に対し、皮膚欠損部近くの皮膚を延ばして、その延ばした皮膚を用いて局所皮弁を作る手技である。
 具体的には、皮膚欠損となる部分をあらかじめ想定し、その近くの皮下に「シリコンで作られた袋」=ティッシュエキスパンダーを入れ、この中に「生理食塩水」を入れて袋を膨らませて、皮膚を延ばす。
 手術は2回必要となる。
 一回目の手術で、シリコンの袋=ティッシュエキスパンダーを皮膚欠損となる部の近傍の皮下に埋める。
 約2ヶ月間2週間に1度の割合で、その中に生理食塩水を追加していく。ティッシュエキスパンダー上の皮膚は伸展されていく。
 2ヶ月程度後に、それを取り出して、伸びた皮膚で局所皮弁を作成して、同時に摘出した皮膚欠損を覆う。

14.遊離皮弁
 深い皮膚欠損や、植皮や局所皮弁が行えない部位に応用する。
 特定の部位の皮膚は、1本の動脈と1〜2本の静脈で栄養されている。この皮膚・皮下組織と栄養血管を採取し、皮膚欠損部近くの動静脈と手術用顕微鏡を用いて、微小血管吻合して、大きく厚い皮膚も移植できる方法。
 吻合する血管の太さは、1〜2mmである。
 

皮膚腫瘍の手術治療

15.皮膚悪性腫瘍の治療

皮膚悪性腫瘍の治療は、その組織型によって異なる。
有棘細胞癌、乳房外パジェット病、悪性黒色腫など、多くの皮膚悪性腫瘍では、腫瘍の視診・触診による辺縁から3cm程度離して、皮下組織を含めて摘出する。
摘出によって生じた皮膚欠損は、前述の植皮術を行う。
ただし、その部位によって、植皮ができない場合や、植皮によって生活上の制限が生じる場合などは、皮弁(局所皮弁・遊離皮弁)を行う。

基底細胞癌や表皮内癌(ボーエン病、日光角化症など)では、腫瘍辺縁から3〜5mm離して摘出し、局所皮弁または植皮を行う。

リンパ節廓清術
皮膚悪性腫瘍で、所属リンパ節の腫脹がみられる場合、リンパ節生検を行い組織診断で、リンパ節転移を診断するか、または局所所見や触診で転移と診断できる場合は、リンパ節廓清術を行う。
リンパ節転移の診断には、CT・MRI、腫瘍シンチ検査等を併用する。
ただし、皮膚悪性腫瘍に対して、全例にリンパ節廓清を行うわけではない。
一般的に、下肢や陰部に生じた皮膚悪性腫瘍では、鼡径リンパ節廓清を、上肢に生じた場合は腋窩リンパ節廓清を行う。
予防的リンパ節廓清は、基本的には行わないが、組織型、進展度を考慮した上で、その適応を決めている。

16.皮膚良性腫瘍の治療

皮膚良性腫瘍の手術治療は、腫瘍を完全摘出できる最小範囲で切除することを基本とする。
出来る限り縫合創は皮膚割線の方向に一致させる様に努力している。皮膚割線とは、ほぼ「しわ」の方向の線である。
 

熱傷

皮膚科では、熱傷局所の診断・処置についての講義を行います。
広範囲熱傷の全身管理や気道熱傷などについては、救急医学で講義があると思いますので、省略します。

17.熱傷の分類・治療
熱傷の深さによって分類する・・・・・2度、3度熱傷が大切。
この表の内容は、一生覚えておきましょうちゃんと教科書で、深さの図も見ておくこと。
深度      症状 治療 治療上の注意点 後遺症
1度熱傷
(表皮熱傷) 
紅斑 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意 一過性色素沈着、色素脱失、瘢痕は残さない
2度浅層熱傷
(真皮浅層熱傷)
水疱 冷水で冷やし消毒・外用療法 感染に注意、水疱内容を吸引して外用 色素沈着、色素脱失を残すことあり。瘢痕は、ほとんど残らない。
2度深層熱傷
(真皮深層熱傷)
びらん 冷水で冷やし消毒外用療法、人工被覆剤 感染に注意、しかし3度熱傷と同様となり、デブリドマン・植皮が必要となることも多い。 感染せず治療できた場合でも、瘢痕を残して治癒。
3度熱傷
(皮下熱傷)
壊死・
蒼白
デブリドマン後に植皮 外用治療では治癒が難しいため、早期に植皮術を計画する。 そのままでは難治性潰瘍。植皮後は一般の植皮後と同様の瘢痕として残る。
4度熱傷 炭化 炭化部除去・切断 熱傷としての治療はできない 切断や広範囲の組織欠損となり、それによる後遺症が残る。

ポイント
2度浅層、2度深層、3度熱傷の鑑別診断が、極めて難しいことが多い。
熱傷深度で治療の方法が異なるため、正しく診断する必要がある。

低温熱傷
 熱傷の深さは「温度×時間」で決まる。よって比較的低い温度(アンカやヒーターの温風)でも長い時間作用することで、熱傷を生じる。
 この低温熱傷の方が深達度は深く、3度熱傷となり、デブリドマン と 植皮術を必要とすることが多い。

熱傷瘢痕癌
熱傷後の治癒が遅い(難治性潰瘍)場合の瘢痕治癒後10〜40年の後に、瘢痕部に有棘細胞癌が生じることがある。この場合の治療(手術)は、通常の有棘細胞癌の治療と同様で、腫瘍摘出+植皮術を行う。

電撃傷
通電による損傷。電気火花によるものは「熱傷」である。
熱傷に準じた治療を行うが、電流は血管(血液)を介して通電するため、電撃傷後の皮膚潰瘍への植皮は、同部が虚血状態となっていないかを評価する必要がある。
一般的に、電気が入った部より、抜けた部の皮膚の方が電撃傷が大きくなることが多い。

凍傷
いわゆる「しもやけ」

凍傷
熱傷に準じて1〜4度に分類される。
治療
徐々に加温し、その後の状態に対しては、熱傷の各深達度と同様の治療を行う。
 

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患者さん向けの説明のページにリンク
皮膚良性腫瘍
下肢静脈瘤
皮膚潰瘍
物理的障害
外傷
熱傷
褥瘡

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