34.stasis ulcer:うっ滞性皮膚潰瘍
静脈性皮膚潰瘍=
静脈うっ滞性潰瘍=うっ滞性潰瘍
静脈性皮膚潰瘍の原因で一番多いのは1次性下肢静脈瘤で、次に深部静脈血栓後遺症である。
なぜ静脈性潰瘍ができるかについて、説明する。
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1次性下肢静脈瘤による潰瘍
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圧迫療法で若干改善
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高位結紮術でさらに改善(現在)
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潰瘍の上はうっ滞性皮膚炎によ
る褐色斑
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下肢静脈の解剖と静脈還流
下肢の主な静脈は、深部静脈系(右図灰色)と表在静脈(右図白色)から成る。
深部静脈系は、下腿静脈(前脛骨静脈・腓骨静脈・後脛骨静脈)~膝窩静脈~浅大腿静脈である。
表在静脈系は、大伏在静脈と小伏在静脈およびその枝である。
下肢の静脈血は、筋肉による圧迫と、多くの静脈弁の働きで心臓側に押し出される(筋ポンプ作用:俗に足は
第二の心臓と言われることもある)。
正常肢では、下肢の静脈血のほとんどは、深部静脈系を介して心臓に還る。
表在静脈内にある静脈血は、交通枝を介して深部静脈に流れ込むか、大伏在静脈から大腿静脈へ、または小伏
在静脈から膝窩静脈に流れ、心臓側に還ってい
く。
正常(深部静脈が開存しているとき)肢では、表在静脈である大および小伏在静脈を、取り去っても、足の静
脈灌流には障害はおこらない。
たとえば、狭心症で冠状動脈に狭窄があって「大動脈-冠動脈バイパス」を行う場合や末梢動脈閉塞に対する
バイパス術では、伏在静脈を摘出して、これをバ
イパス血管として利用するが、深部静脈が開存していれば、下肢静脈還流に障害は生じない。
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下肢静脈の解剖
伊藤孝明著:皮膚外科学第2版より引用
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下肢静脈瘤
の分類
1次性
下肢静脈瘤
表在静脈である大または小伏在
静脈そのものに原因のあるもの。
2次性下肢静脈瘤
大または小伏在静脈以外に原因
(深部静脈血栓症など)があり、2次的に表在静脈が拡張
し、これがバイ
パスとなっているもの、など。
1次性下肢静脈瘤の主な成因
表在静脈弁
不全 :
多くの場合表在静脈(伏在静脈)の弁不全が原因
交通枝弁不全
静脈壁の脆弱化
AVシャント説
その他
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伊藤孝明著:日本皮膚科学会専門医テキスト「下肢静脈瘤の診断と治療」(平成11年度)より
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伏在静脈が逆流している下肢静脈瘤を放置すると、将
来的に、下腿潰瘍(大伏在
静脈逆流の場合は、内果上部に、小伏在静脈の場合は外果上部に、両方の場合は下腿の下1/3の全周性に)が生じたり、うっ滞
性皮膚炎が生じる可能性があ
る。
生活習慣の欧米化(畳ではなく、机&イスの生活)や高齢者人口の増加に伴って、今後増加する疾患である。
下肢静脈瘤の治療の適応
静脈瘤が高度で将来合併症を起こす可能性
のあるもの
浮腫・皮膚炎・潰瘍など うっ血症状が著明なもの
疼痛・易疲労感などの愁訴の強いもの
静脈瘤の部分に血栓性静脈炎を繰り返すもの
(美容上の適応)
現在の下肢静脈瘤治療
まずは保存的治療:圧迫療法=弾性ストッキ
ング・弾性包帯で
手術
伏在静脈高位結紮+膝部結紮+不全交通枝結紮
ストリッピング(鼡径から下腿1/2までの大伏在静脈
抜去)
硬化療法:高張食塩水・ポリドカノールの
静脈内注入
血管内レーザー・ラジオ波(高周波)を用
いた血管内焼灼術
逆流静脈結紮・切離
上記治療後は必ず圧迫療法を行う。
上記治療を行い約1ヶ月経過観察の後、残存する瘤に
対して「硬化療法」を行う。
伏在型には「硬化療法」のみの治療は行わない。
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下肢静脈瘤治療の不適応・禁忌 または保存的治療を選択すべき状態
手術に耐えられない高齢者や重篤な全身合併症、シャントを有する心疾
患患者など
静
脈瘤が静脈還流路となっている
場合(2次性静脈瘤)や深部静脈血栓症やその既往のある人
閉塞性動脈硬化症などの下肢動脈閉塞性疾患・・・
教科書的には禁忌となっ
ているが、虚血程度で判断すべきで、絶対禁忌とは考えない。
治療部位に化膿性・感染性病変のある場合
妊娠中など一過性の静脈瘤の可能性のある場合
硬化療法の不適応: いわゆる尖端恐怖症傾向の人。
運動制限のある下肢
。
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右大伏在静脈抜去
後、左大伏在静脈瘤
両側の下肢深部静脈は良好に開存している。
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MRIによる下肢静脈検査:深部静脈の開存の表在静脈の走行を同時に精
査できる。
この撮影法では、兵庫医大放射線科が日本一という噂を聞いた。
下肢静脈瘤の診断と治療:伊藤孝明編(全日本
病院出版会)・・・好評発
売中!・・・・・もう、売り切れてしまった。
通
販のページ
下腿潰瘍の
治療は、まず何より、圧迫療法
その原因が一次性静脈瘤であれ、二次性静脈瘤であれ、膝から足関節の間に出来る潰瘍の大半が静脈うっ滞(静脈高血圧)によ
るものなので、治療には圧迫療法が最も重要。
ただし、足背動脈、後脛骨動脈の脈診で脈が触れること、潰瘍が皮膚悪性腫瘍によるものでないことは、確認しなければならな
い。
深部静脈血栓症Deep vein thrombosis; DVT
イトーひと言:深部静脈血栓症は、肺血栓症の原因となる
疾患。従来より日本人には少ないと言われていた疾患である。
しかし、決してそんなことはなく、日本人にも多い、・・・いや、少なくない。
これは診断できる医師が少ないために、少ないと言われてきただけである。
深部静脈血栓症は、肺血栓塞栓症の原因となり、死因の1つであり、とても重要な疾患である。
その初発症状が、下肢のむくみ、痛み、発赤のみであることもあり、皮膚科医は充分知っていなければならないが、ほとんど
知らない。
また、この疾患を理解し診断できないために、多くの医師は、下肢の蜂窩織炎と誤診して、抗生剤投与で経過をみている、と
いうようなことが、とても多い。
深部静脈血栓症とは、下肢の深部静脈に静脈血栓が生じる(ヒラメ静脈内の血栓から起こる
可能性大)もので、下肢のむくみ、痛み、発赤がみられることがある。初期(血栓が出来たとき)には、全く無症状であるこ
とが多い。
下肢深部静脈血栓症は、左下肢に生じることが多い。それは、解剖学的な理由で、下大静脈
に合流する前の左総腸骨静脈が、前方は右総腸骨動脈により、後方は椎体によって圧迫されて内腔が狭くなっているためであ
る(iliac vein compression)。・・・解剖学で習っているはず。
下肢の深部静脈血栓の栓子は、これが飛んで心臓をすり抜けて、肺動脈にひっかかって肺動
脈に血栓塞栓症を生じるため、肺血栓塞栓症(Pulmonary embolism; PE)と
深部静脈血栓症をあわせた疾患として、静脈血栓塞栓症(Venous thrombosis;
VTE)と呼ぶことがある。
男性よりも女性にやや多く、40代後半から50代に起きやすい。最近では長時間の飛行機
搭乗によるエコノミーク
ラス症候群、とか、ロングフライト症候群、とか、旅行者血栓症と言われるが、バスや乗用車でも生じます。
静脈血栓症は全身の表在性や深部のどの静脈にも起こりえるが、下腿静脈、大腿静脈、骨盤
内深在静脈などの深部
静脈血栓症は頻度も多く、致命的となりうる肺塞栓を生じる可能性があり臨床的に重要である。
DVTの原因(血栓の原因)
1856年にRudolf C.Virchowが提唱した(1)血流の停滞,(2)血管内皮障害,
(3)血液凝固能の亢進が, 血栓形成の3大要因として重要である.
・・・PE・DVTの診断、治療、予防ガイドラインより引用。
DVTの原因疾患
担癌状態または癌の既往・・・これが一番多いのではないが重要なため最初に記載した。
長期臥床、長時間手術の既往
下肢の外傷・固定の既往や人工膝・股関節置換術後など。
PE・DVTの診断、治療、予防ガイドラインの肺血栓塞栓症の主な危険因子としての記載は、
後天性危険因子としては,手術,肥満,安静臥床,悪性腫瘍(Trousseau症候群),外傷,骨折,中心静脈カテーテル留
置,うっ血性心不全,慢性肺疾
患,脳血管障害,抗リン脂質抗体症候群,薬剤(エストロゲン,経口避妊薬, ステロイドなど
),長距離旅行(traveller's thrombosis)など、とある。
先天性危険因子として,プロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症,アンチトロンビン欠乏症,高ホモシステイン血症など
DVTの診断
カラードプラ超音波断層検査や造影CT検査で行う。
超
音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法(案)へリンク
治療
発症後1週間以内であれば、一時的静脈フィルターを下大静脈に入れて血栓溶解療法を行う。
深部静脈血栓症は、予防が大切。圧迫療法が主体。浮遊血栓が無ければ間欠的空気圧迫法。
(浮遊血栓の有無はカラードプラ超音波断層検査で行う)
深部静脈血栓後遺症(慢性下肢静脈不全症)
二次性静脈瘤による、うっ滞性潰瘍(=静脈性潰瘍)が重要である。
多くは下腿の下1/3の内果上部や外果上部、またはその両方に潰瘍(静脈性潰瘍)とその周囲のうっ滞
性皮膚炎をみる。
治療は圧迫療法(弾力包帯・弾力ストッキング)を行う。
しかし、潰瘍部の圧迫は痛みを伴うため必要な圧迫が行われず、治療をあきらめる患者さんも多い。
当科では、深部静脈血栓後遺症による下腿潰瘍に対して、入
院安静と潰瘍の保存治療
(約2週間)の後、植皮(皮膚移植)を行い、皮膚潰瘍を治療した上で、圧迫療法を行って治療している。
この方法は新しい考え方で、年配の医師からは「深部
静脈血栓後遺症の皮膚潰瘍に植皮は着かないから治療にならない」と指摘を受けるが、植皮術の成功率
99%の当科では可能となっている。
最
近の経験
(2006/05/21記載)
昨年、新鮮深部静脈血栓症の初診患者さんを保存的治療した。もともと軽症の1次
性下肢静脈瘤のあった患者さんであった。
治療内容は、圧迫療法&足関節運動とワーファリンによる抗凝固療法である。
その患者さんは治療に熱心で、比較的早期に軽快していった。経過はドプラ聴診器
を用いた伏在静脈のバイパス音(伏在静脈上向音)の評価で行った。治療後
約半年で、超音波検査等にて全く異常所見無く、うまく治療できた。
現在では、軽度の1次性下肢静脈瘤がある様にしか視診診断できない。
・・・
さらに、どんな検査をして
も、2次性静脈瘤であることを診断できない。
その患者さんには、「テキトーに病院を受診して下肢静脈瘤の治療を受けないこ
と」と指導しているが、もしこの患者さんがこの状態で私の外来に初診した
ら、診察所見から、1次性静脈瘤としての治療を勧めるかもしれない・・・と思う状
態である。
この場合、問診が非常に重要であ
る。問診で「深部静脈血栓症と診断された」と言えば、正しい知識のある医者なら、
静脈瘤の治療は行わないと思うが、一部商売医療的に静脈瘤治療をしている
施設もないわけではないので、非常に注意を要する。
最
も詳しい情報
「日本皮膚科学会の下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン」
を読んでみよう!
脚
の静脈の血行障害-静脈瘤:循環器病情報サービスのページへ
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