下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン(案)にお ける用語の定義・説明

【下腿潰瘍】下腿に生じる潰瘍の総称で、種々の原因で生じる が、静脈性潰瘍の頻度が最も多く欧米では約7〜8割は静脈性とされている。約1割は動脈性で両者の合併もあるが、下腿潰瘍の多くは循環障害によるものであ る。その他の原因として膠原病、褥瘡、悪性腫瘍、感染症、接触皮膚炎などがある。

 

【静脈性下腿潰 瘍】静脈うっ滞性潰瘍、 うっ滞性潰瘍、または単に静脈性潰瘍とも呼ばれる。静脈環流障害(いわゆる静脈うっ滞)により生じる潰瘍で、静脈高血圧状態により皮膚炎を生じ、これに打 撲など小外傷が加わって潰瘍を生じることが多い。原因の多くは一次性下肢静脈瘤であるが、二次性下肢静脈瘤によっても生じる。下腿の下1/3から足背に生 じることが多い。

 

【うっ滞性皮膚 炎】うっ滞性湿疹。静脈 うっ滞≒静脈高血圧状態によって生じる湿疹・皮膚炎である。下腿に生じることが多く、原因の多くは一次性下肢静脈瘤であるが、二次性下肢静脈瘤によっても 生じる。

 

【下肢静脈高血圧】立位で下肢運動時(つま先立ち・足踏み運動)で も、下腿末梢部での静脈圧が高い状態をいう。正常肢でも立位安静時は、中心静脈の高さまでの静脈圧が足関節部にかかっており、約80100mmHg であるが、下肢の運動により筋ポンプ作用で、速や かに約30mmHg 以下にまで低下する。一次性静脈瘤では、静脈弁不 全のため運動時でも約60mmHg 程度までしか低下せず、深部静脈血栓症(DVTなど深部静脈閉塞肢では、ほとんど低下しないか、 または下肢運動により上昇する場合もある。この様な運動時に下腿末梢部静脈圧が低下しない状態をいう。

 

【下肢静脈瘤】下肢表在静脈が拡張・蛇行する疾患である。「瘤」 と書くが、必ずしもコブ状でない場合も含まれる。一次性下肢静脈瘤と二次性下肢静脈瘤に大別される。

 

【一次性下肢静脈瘤】一次性静脈瘤とも略す。下肢表在静脈が拡張・蛇行 する疾患のうち、拡張・蛇行している静脈そのものに原因のある場合を呼ぶ。多くの下肢静脈瘤は一次性静脈瘤である。

 

【二次性下肢静脈瘤】二次性静脈瘤とも略す。拡張・蛇行している下肢表 在静脈そのものに原因のない、二次性(続発性)に病変が存在する場合を呼ぶ。この原因としては深部静脈血栓症(DVT) や血栓後遺症に伴うもの(DVT後静脈瘤)の他に妊娠、骨盤内腫瘍、動静脈瘻、血管性腫瘍などがあ る。DVT後静脈瘤が多いが、DVT後に深 部静脈が再疎通した場合は、深部静脈の開存確認のための検査で一次性静脈瘤と全く鑑別できない事があり注意を要する。この場合は、深部静脈弁不全(弁逆 流)などにより、下腿筋 ポンプが充分作用せず下 腿の静脈高血圧状態(静脈うっ滞)が続く。立位でも伏在静脈が深部静脈のバイパスとして機能している場合に、これを一次性静脈瘤と誤診して静脈瘤手術を 行った場合は、術後に静脈うっ滞が更に亢進し重症化する場合がある。また、DVTの既往があっても、明らかな弁逆流や深部静脈閉塞 が認められない場合もある。

 

【下肢静脈】下肢の静脈は表在静脈、深部静脈、交通枝に分けら れる。

 

【下肢表在静脈】皮膚表面に近い部分を走行する大・小伏在静脈やそ の分枝の静脈を総称して下肢表在静脈と呼ぶ。正常では下肢静脈の約1〜2割がこの表在静脈系を介して還流している。表在静脈・深部静脈ともに多くの静脈弁 があり、これにより筋ポンプ作用で、足の静脈は還流されている。なお、深部静脈血栓症などで本来の静脈還流路である深部静脈系に障害が生じた場合は、表在 静脈系がバイパスとして働き、未治療の場合は二次性静脈瘤になることがある。

図1 下肢静脈の 図:伊藤孝明: うっ滞性潰瘍・下肢静脈瘤、皮膚外科学540-549 2010,秀潤社より改変

 

【大伏在静脈】下肢表在静脈の1つである。内果の前方から始ま り、下腿内側を上行して膝内側から大腿内側を走行して、鼠径部で大腿静脈に流入する。この間にその分枝の表在静脈も流入するが、交通枝(穿通枝)を介して 深部静脈系にも還流している。多くの場合、本幹は1本であるが、2〜3本に分かれて併走している場合もある。

 

【小伏在静脈】下腿後面を走行する通常は1本の表在静脈である。 外果後方から始まり下腿後面のほぼ中央を膝窩部に向かい、膝窩静脈に流入する。頭側の1/3〜1/2は筋膜下にある。深部静脈との交通枝や大伏在静脈との 間にも繋がる表在静脈がある。小伏在静脈の走行は個人差が多く、膝窩静脈に流入するものは約6〜7割で、膝窩静脈に接合しない例、接合しているがそのまま 大腿後面を上行し鼠径部で大伏在静脈に合流する場合もある。

 

【下肢深部静脈】下肢深部で動脈と併走している静脈系で、下腿の動 脈と同名の各静脈が膝下で合流して膝窩静脈となり、浅大腿静脈となり鼠径部で大伏在静脈と接合し、外腸骨静脈へとつながる。正常では、下肢の静脈血の約 8〜9割を還流している。

 

【交通枝】穿通枝ともいう。表在静脈系と深部静脈系を繋いで いる径3mm 以下の静脈で、静脈弁があり正常では表在から深部への一方通行である。

 

【不全交通枝】不全穿通枝ともいう。下肢静脈瘤などで静脈うっ滞 が生じ、弁不全により深部静脈系から表在静脈系に逆流する様になった交通枝を不全交通枝という。

 

【一次性静脈瘤の形態分類】

@からCに 分類するが、これらが同時にみられることもある。

AからCは 小静脈瘤と総称することもある。

@伏在型静脈瘤:本幹型静脈瘤ともいう。治療を必要とする一次性静 脈瘤では最も多い。

大伏在型静脈瘤は大伏在−大腿静脈接合部直下の大 伏在静脈の弁不全から逆流が生じ、大腿から下腿の内側に静脈拡張や蛇行をみる。内果上部や下腿前面にうっ滞性皮膚炎や潰瘍を伴うことがある。小伏在型静脈 瘤は、小伏在−膝窩静脈接合部直下の小伏在静脈弁不全から生じ、下腿後面の静脈の拡張や分枝静脈の拡張をみる。外果上部にうっ滞性皮膚炎や潰瘍を伴うこと がある。進行例では、大−小伏在間静脈を介して、下腿部の大伏在静脈に逆流が及び、下腿内側の静脈瘤を伴い内果直上に皮疹をみることもある。

A側枝静脈瘤:分枝静脈瘤ともいう。伏在静脈本幹に静脈瘤や静脈 逆流がみられず、伏在静脈以外の表在静脈が拡張・蛇行しているもの。単独でみられることは比較的少なく、伏在静脈瘤を見落としていないか精査する必要があ る。

B網目状静脈瘤:径2〜3 mm の静脈が青く網目状に拡張するもの。

Cクモの巣状静脈瘤:径 mm 以下の細かい紫紅色の静脈が生じるもの。

図2 一次性下肢 静脈瘤の形態分類:伊藤孝明: うっ滞性潰瘍・下肢静脈瘤、皮膚外科学540-549 2010,秀潤社より

【慢性静脈不全症 (chronic venous insufficiencyCVI) または、chronic venous disorders:CVD

慢性静脈不全症とは「何らかの原因で、心臓への静 脈還流が障害された結果、下肢のだるさ・浮腫・腫脹・疼痛・二次性静脈瘤・湿疹・皮膚硬化・潰瘍等が現れてくる病気」と定義されている。深部静脈血栓症後 遺症や下肢静脈瘤の未治療で生じる下肢静脈高血圧状態が持続しているために生じる。CEAP分類に 従って明確に分類し治療方針を決めることがすすめられる。

 

【静脈瘤性症候群】うっ滞性症候群:下肢静脈うっ滞によって引き起こ される症状(足から下腿の浮腫・倦怠疲労感、うっ滞性湿疹・紫斑、色素沈着、ヘモジデリン沈着、白色萎縮、下腿潰瘍など)として扱われている名称である。 これに含まれる病態の主な原因には、一次性下肢静脈瘤の未治療放置例と深部静脈血栓症後遺症がある。この2つは治療法が異なり、前者は原因である下肢静脈 瘤の手術治療を行うべきで、後者は厳格な圧迫療法など保存的療法を継続しなければならない。なお、この病態は慢性静脈不全症(chronic venous insufficiencyCVIまたは、chronic venous disorders:CVD)と呼ばれる。

 

CEAP分 類】下肢の静脈性疾患 は、1994 American Venous Forum で採択されたCEAP分類(2004年改訂)を用いることが一般的である。これ は、臨床徴候C0 6、病因Ec,p,s,nに、 解剖学的部位As,d,p,n に、病態生理学的機能不全P r,o,n で分類する。

 

表3 CEAP分類

【深部静脈血栓症(DVT)】おもに下肢深部静脈に血栓が生じる病態をさす。肺 血栓塞栓症(Pulmonary embolismPE) と深部静脈血栓症(Deep vein thrombosisDVT)は合併することも多いので総称して静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)または静脈血栓症(venous thrombosis : VT)と呼ぶこともある。血栓の成因として「ウィルヒョー の3要素(Virchow's triad@血 管内皮細胞の障害、A血流の障害、B血液凝 固性の亢進、が唱えられている。最近ではヒラメ静脈の血栓から始まり深部静脈血栓が出来るとの考えがある。様々な原因があるが、膝関節人工関節置換術後で は約半数にDVT が生じるとの報告もある。DVTとPEはエコノミークラス症候群と呼ばれるこ ともあるが、飛行機旅行以外でも生じるためこれは適切な病態名ではない。

 

【深部静脈血栓症予防ガイドライン】肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン。深部静脈血栓症は肺塞栓症の原因であり、特に術後や出 産後などに多く発症し不幸な転帰をとることが多い。そのため、2004 年に日本では初めて、予 防的処置や投薬が保険適応となっている。

 

【深部静脈血栓症後遺症】深部静脈血栓症(DVT)後の慢性期に、おもに下肢静脈高血圧状態によって引き起こされる症状をさす。DVTの慢性期では側副血行の発達や深部静脈の再疎通に より症状は軽減する。しかし、側副血行の発達不良や弁不全(弁逆流)が残ると下腿筋ポンプが充分作用せず、静脈血が何時でもうっ滞するため、下肢のだる さ・浮腫・腫脹・疼痛・二次性静脈瘤・湿疹・色素沈着・皮膚硬化・潰瘍等が生じる。

 

【血栓性静脈炎】おもに表在静脈の血栓による静脈炎をいう(深部静 脈に生じるものは深部静脈血栓症として区別する)。バージャー病、ベーチェット病、凝固線溶系異常、血小板増多症、悪性腫瘍などに合併して生じるが、下肢 では静脈うっ滞に伴い生じるものが多い。上肢では静脈注射など医原性が多い。

 

【先天性静脈瘤】生まれつきあるが目立たず、多くは学童期から静脈 の拡張が生じてくる。症状は成人の静脈瘤と同様だが、深部静脈が開存していればストリッピング手術を行うべき場合も多い。これに含まれる特徴的な病態とし て、下肢静脈瘤・血管腫(静脈奇形を含む)・患肢の延長を伴うクリッペル・トレノニー症候群(Klippel-Trenaunay syndrome)がある。

 

検査の説明

【トレンデレンブルグ検査】Trendelenburg test:大・小伏在静 脈および穿通枝の弁機能を調べる保存的検査である。下肢静脈瘤患者を臥位で下肢挙上して表在静脈と静脈瘤を空虚にする(このとき静脈瘤が空虚にならなけれ ば、深部静脈の閉塞か静脈瘤自体が血栓で充満している)。次に挙上したまま大腿部に駆血帯(ゴムバンドなど)を巻き立位にさせ静脈瘤が充満するかどうかを 観察する。すぐに充満してくる場合は、駆血帯より足側に不全交通枝があるか、または小伏在静脈の逆流が考えられる。静脈瘤が目立ってこない場合は、大伏在 静脈の逆流のみで、それが駆血帯で阻止されている。その後に駆血帯を除去し静脈瘤が膨隆することが確認できれば、大伏在静脈の弁不全と考えられる。

 

【ペルテス検査】Perthes test:深部静脈の開 存と穿通枝の弁機能をみる保存的検査である。下肢静脈瘤患者を立位とし静脈瘤を確認し、大腿部に駆血帯を巻く。その状態で足踏み運動か爪先立ち運動をさ せ、この筋ポンプ作用により、静脈瘤が軽減したら、深部静脈は開存していると推定する。この運動にてあまり変化がない場合は、駆血帯より足側に不全交通枝 があると推定する。逆に静脈瘤が増悪する場合は、深部静脈の閉塞を疑う。

 

【ドプラ聴診検査】超音波ドプラ聴診器を用いて血流の状態を聴く検査 である。末梢動脈閉塞性疾患や下肢静脈疾患の診断には不可欠な検査である。下肢静脈の検査では必ず立位で行い、プローブにゼリーをたっぷり付けて皮膚を圧 迫しないようにする。深部静脈の血流や表在静脈(大・小伏在静脈とその分枝)の逆流の有無を確認できる。Valsalva 法や下腿ミルキング法などにより逆行性血流を生じさせ、逆流音を聴けば異常である。表在静脈では逆流音を聴取しないのが正常である。

図3 ドプラ聴診 器:聴診器のみ(左)、血流方向検知機能のあるもの(右)などがある。

 

【下肢静脈造影検査】おもに深部静脈の開存を確認する検査である。透視 台を用いて半立位〜立位で行う。大腿、下腿と足関節上部に駆血帯を巻き、足背静脈を穿刺して造影剤を注入し、造影剤が深部静脈に流入していくのを透視下に 確認しながら撮影し、深部静脈の確認が出来たら駆血帯を外し分枝や静脈瘤も確認する。侵襲的検査であるが描出範囲が限定される。

 

【下肢造影CT検査】一般的には上肢静脈から造影剤を注入し、下肢静脈 の描出能を高めるために、スキャンタイミングをずらして、下肢の静脈相でCT撮影する。3D 像を作成すれば、術前検査として有用である。また、血栓があれば、陰影欠損として確認できる。

 

【下肢カラードプラエコー検査】超音波断層法で静脈や瘤の走行、分枝や穿通枝の局 在診断を行うが、duplex scan 法を併用することで表在静脈のみならず、穿通枝不全の有無や深部静脈の状況を精査できる。

 

【下肢MRI静 脈撮影】MRI を用いて下肢静脈を撮影する非侵襲的検査法であ る。T2 強調像を元にして液体の信号を強調し、血流の方向を指定することによって、動脈の影響 を排除して静脈のみを描出する。深部静脈と表在静脈その交通枝を含めて詳細に知ることができ、3 D 像 を作成すれば、術前の評価に最も有用な検査法である。ただし下腿浮腫等を伴っている場合は良好な画像は得られないことがある。また心ペースメーカーや体内 に金属異物がある場合は禁忌である。

図4 MRI 静脈撮影(左大伏在静脈瘤)、右写真は左下肢の側面像

【下腿静脈脈波検査】下腿静脈の無侵襲検査法である。体位変換や運動負 荷、駆血などでの下腿の容積変化を測定することで、静脈還流機能を評価する。空気容量脈波法(APG:airplethysmography)、 反射式光電容量脈波法(PPG:photoplethysmagraphy)、ストレインゲージ容 量脈波法(SPG:strain gauge plethysmography)などがあるが、最 近では空気容積脈波法が用いられることが多い。測定方法として、筋ポンプ脈波法により下腿筋ポンプによる静脈還流機能を評価・定量することや、圧迫法によ り深部静脈の還流障害の有無を検査することが可能である。

 

ABIま たはABPI(下肢圧/上肢圧比)】Ankle Brachial Pressure Index =足関節上腕 血圧比。上腕と下肢(主に後脛骨動脈や足背動脈)の血圧を測定し、その比(下肢血圧/上肢血圧)により示される値である。正常値は1.0 1.4であり、一般的に0.9 以下は異常とされる。ただし下肢動脈硬化ではABI が正常値となることがある。 そのため現在では血圧脈波検査装置(ABI/PWV)を用いることによって短時間に測定できる。こ れでは四肢の動脈血圧と同時に脈波伝搬速度を測定することで、正常か動脈硬化かの鑑別診断が可能とされている。

 

治療法の説明

【圧迫療法】下肢静脈瘤、深部静脈血栓症、リンパ浮腫に対する 保存的治療として最も重要な治療法である。弾性包帯や弾性ストッキングを用いる。潰瘍がある場合は圧迫圧を調整しながら巻けるため弾性包帯が使いやすく、 潰瘍がない場合はストッキングが使いやすい。ただし下肢末梢動脈狭窄がある場合は注意が必要で、特にABI(下 肢圧/上肢圧比)が0.8未満では圧迫療法を行わないほうがよいとの報告がある。朝起床時すぐに弾 性包帯か弾性ストッキングを装着し、就寝前まで続け、就寝時は下腿を約10cm(座布団2枚を下腿 の下に敷いて)挙上する。圧迫療法は手術治療を行わない患肢には継続して行い、手術治療後の場合でも2〜3ヵ月行うようにする。

 

【弾性包帯】圧迫療法に用いる伸縮性の包帯である。比較的値段が安く、圧迫力・ 圧迫範囲を調整できるが、ずれやすい・ほどけやすい、巻き方による圧迫力の差が出やすい。しかし、潰瘍を有する場合は、圧迫による痛みや、潰瘍を被覆した ガーゼがずれにくいためストッキングより使いやすい。足部も圧迫するようにして巻き始め、小伏在型静脈瘤では4インチ幅のものを用いて膝まで、大伏在型静 脈瘤では6インチ幅で大腿まで巻く。均一に圧迫できるように巻くには慣れが必要である。

図5 弾性包帯

 

【弾性ストッキング】下肢静脈疾患・リンパ浮腫などの治療用ストッキン グである。術中術後の深部静脈血栓症の予防としても用いられている。パンティストッキング、ストッキング型、ハイソックス型型があり、趾部のあるものと無 いものがある。複数のメーカーから発売されており、それぞれSSSMLLL などのサイズと、圧迫圧について強・中・弱などの表記がある。下肢の長さ・太さに応じて選択する。ス トッキングでの圧迫療法は、充分な説明が必要である。適切なサイズでは、最初は簡単に履けるものではないことを説明しておく。簡単に履ける場合は足に合っ ていない(圧迫圧が足りない)こと、台所用ゴム手袋などを用いると比較的履きやすいことなども説明しておくとよい。弾性ストッキング着用時に用いる補助器 具も発売されている。

 

  

図6 弾性ストッ キング:パンティストッキン グ型(上左)、ストッキング型(上右)、

ハイソックス型(下 左)、握力の弱い場合に用いるゴム手袋(下右)

 

図7 バトラー® 弾性ストッキング着用時の補助器具。

つま先あきタイプの 圧迫ストッキング用には、イージスライド®などがある。

【サポートストッキング】「ひきしめ用ストッキング」や「圧着ストッキン グ」の名称で販売されている衣料品の弾性ストッキングである。治療用のストッ キングを履くには、握力が必要であり、高齢者や握力の弱い患者には、このサポートストッキングの重ね履きを勧めるのもよい。

 

【下肢静脈瘤手術】一次性下肢静脈瘤に対する手術の総称である。静脈抜去術(ストリッピング手術)と高位結紮術、 硬化療法などが保険診療として認められている。どの治療においても、術前に深部静脈の開存確認を行い、立位と臥位でドプラ聴診器とエコーを用いて静脈の位 置をマークし、手術部位を決定しておいて手術に臨む。各法については次項以下に記載する。

 

【静脈抜去術(ストリッピング手術)】伏在静脈の拡張が高度(静脈瘤が太い:施設により 異なるが立位で鼠径部大伏在静脈径が8 mm 以上)の場合選択すべき手術である。弁不全となっ た伏在静脈を抜去する根治的治療法で、不全交通枝も遮断されるため安定した成績が得られる。腰椎麻酔・硬膜外麻酔や、最近では大量低濃度局所浸潤麻酔(TLA法)+大腿神経ブロックで行う施設もある。

鼡径部で大伏在静脈を高位結紮切離した後、下腿の 大伏在静脈から鼡径部に向かってストリッピングワイヤーを挿入し、ヘッド(オリーブ)に換えて抜去するBabcock 法と、これを使わずストリッピングワイヤーに静脈を結紮して、静脈を内翻させて引いて抜去する内翻ストリッピング法がある。後者の方が神経 障害が少ないが、抜去静脈が途中で断裂することがあり注意が必要である。静脈瘤根治術と呼ばれることもあるが、術後5年経過すると、3〜4割で再発(別の 表在静脈を介した逆流)がみられるとの報告がある。

 

【高位結紮術】伏在静脈の拡張が中等度の場合に選択される手術で ある。局所麻酔で行う。大伏在静脈瘤では鼡径線よりやや足側に、小伏在静脈では膝窩部に皮膚切開をおき、皮下を剥離して、伏在静脈を露出し、深部静脈への 流入部を確認してこれが狭窄しないように伏在静脈を二重結紮して切離する。この時同時に深部静脈に流入する分枝も結紮切離しておく。高位結紮のみでは再発 がみられることもあり、高位と膝の上下の3カ所の結紮切離を行って、後日硬化療法を併用する施設が多い。

 

【硬化療法】小静脈瘤に対する治療法。小静脈瘤の部に硬化剤を 注入する。ポリドカノールが保険適応となっている。27G 針を用いて0.5 〜1%のポリドカノールを瘤内に注入して弾性包帯にて圧迫する(圧迫硬化療法)。最近では、空気と 混合して泡状とし注入する方法(泡状硬化療法:フォーム硬化療法)も行われている。なお、硬化剤は、立位で径8mmを 越える伏在型静脈瘤には適応とならず、従って下腿潰瘍の原因となるような下肢静脈瘤には、通常は単独では行わない。

 

【外用薬】 皮膚を通して、ある いは皮膚病巣に直接加える局所治療に用いる薬剤であり、基剤に各種の主剤を配合して使用するものをいう。

 

【創傷被覆材】 創傷被覆材は、ドレッシング材(近代的な創傷被覆材)とガーゼなどの医療材料(古典的な創傷被覆材)に大別される。前者は、湿潤環境を維持して創傷治癒に 最適な環境を提供する医療材料であり、創傷の状態や滲出液の量によって使い分ける必要がある。後者は滲出液が少ない場合、創が乾燥し湿潤環境を維持できな い。創傷を被覆することにより湿潤環境を維持して創傷治癒に最適な環境を提供する、従来のガーゼ以外の医療材料を創傷被覆材あるいはドレッシング材と呼称 することもある。

 

【ドレッシング 材】 創における湿潤環境形成を目的とした近代的な創傷被覆材をいい、従来の滅菌ガーゼは除く。