いわゆる「手術の成功率」は、手術の難易度に大きく左右されます。
同じ病気でも、軽症だったり進行していない場合は、当然成功率は高くなります。
片や、重症や進行期の患者さんに対する手術は、「いわゆる成功率」は低くなります。
余り経験のない術者では、「重症や進行期の患者さんに対する手術」は、「手術適応無し」と診断して、手術を行いません。
・・・もちろん、その方が安全です。
一方、手術に「慣れている」か「多くを経験している」、または「うまい」、または「うまいと勘違いしている」医師は、重症や進行期の患者さんに対する手
術を積極的に行います。・・・当然です。
ただ、残念なことに、「慣れている」か「多くを経験している」医師または病院の中にも、見かけの「手術成功率」(数字的には真の手術成功率と同じ)を上
げるために、難易度の高い手術は行わない医師または病院があるのは事実です。
私は、現在の「皮膚外科」という領域で手術医療に携わる前は、胸部・心臓血管外科で研修医・医員の4年弱を過ごしましたが、(すみません表現が悪いです
が)たらい回しに送られてきた患者さんがいて、先輩医師に「なぜこの患者さんは、当科より手術経験が多いと思われる施設に紹介されておきながら、こちらに
廻ってきたか?」という質問をしましたら、即答で「難しい手術になるのが判っているので、大変だからうちに送ってきた」と答えました。とても若かった私は
少しの期間その意味が理解できなかったのですが、その後に施設の手術成績を上げるために前医はそのようにしたことが判りました。
最近のテレビのそれ系の番組で何人かの医師が、「手術の成功率ではなくて手術経験数(手術件数)で評価すべきである」と言っていますが、それは正しいと
思います。
成功率は分母(手術件数)によって全く変わります。しかし手術のうまくない施設には、紹介する医師は「情報なりうわさ」があれば、そんなところに紹介し
ませんから、手術件数は多くなりません。かつそういう病院では「難しい手術は手術適応無し」と判断しますから、見かけの成功率はさらに上がります。
・・・このような裏がありますから「手術成功率」より「手術件数」で評価するのが、まだ信頼性があるかもしれません。
こういうことがあるので、「手術成功率」を問うより、「手術件数」を質問される方が良いと思います。
ちなみに、前述の二十ウン年前の「大変な」患者さんですが、某国立施設に行かずに、私立の当院に送られてきて、私が主治医となり、血管造影検査を行い、
私も助手として手術を行いました。
朝一から始まって、終わった頃は日付が変わっていました。当時はICU(集中治療室)での治療も、主治医である私が担当して、もう大変な戦いでしたが、
奇跡的にすべてがうまく進んで無事退院しています。
その数年後には、私は今の皮膚科に転職していましたが、術後の検査入院でその患者さんとは、再会できて、当時を懐かしく楽しく長い間お話しをする機会が
あって、お互いにとても幸せな時間を過ごすことができました。