「私の研修医時代」
もう二十ウン年前に私も研修医だった。
私にとっては過酷な、しかしとても充実した研修医生活を送らせて頂いた。
その当時の制度では、医大を卒業して医師国家試験に合格すると、例外を除いて、どこかの医局(講座または教室)に入局する制度であった(現在は違う)。
卒前から、どの診療科を選ぶかについて悩んだが、「思い切り忙しい・キツイところで自分を鍛えるか」、逆に「思い切り楽して趣味に走るか!」の二択だっ
たが、ふと考えると楽なところで過ごして、その間に別の診療科に魅力を感じてもそこがしんどいところだと、なかなかしんどい所へ転職は難しいと考えて、当
時母校で一番しんどい・キツイと評判だった胸部外科(心臓血管外科・呼吸器外科)を選んだ。
なかなか良かった。前もって希望を出すと年間2週間の休みをもらえたが、それ以外は、24時間拘束される仕事だった。入院患者さんはずっといるわけで土
日も処置などで出勤するのは当たり前で(無給)、基本給は1年目が5万3千円、2年目が5万7千円というものだった(当直給は除くが一定以上は無し)。
まぁこれに加えて循環器医として会社・学校検診のアルバイトがあったのでぎりぎりの生活はできた。
「身内が死んだとき以外は休みはなし」という言い伝えがあったが、無断欠席した同僚はクビになった。
もちろんしんどい・キツイだけを求めて入局したのではなく(当たり前)て、研修医の間に外科医としての基本、循環器科医・呼吸器科医としての勉強、血管
造影・心臓カテーテル検査などの放射線検査技術、ICU勤務での集中治療の勉強、一通り出来るようになれば、一般病院の救急外来のパートも、他科での研修
医に比べて相当早く経験でき、また2年目後半または3年目初めには麻酔科に半年間のローテーション義務もあり盛りだくさんのメニュー(修行の場)があった
からだ。
何より、仕事が「心臓」を相手にするという究極の領域だったので、充実した研修医としての2年間を過ごした。
私にとって、研修医だった2年間は、その後の10年間に匹敵するほどの知識・技術を得ることが出来た。
・・・しかし、このような制度はもう無くなった。
「現在の研修医制度」2006/7/21
今の研修医制度は、私の頃とは全く違う。平成15年以降に大幅に変わった。これは制度が変
わったと言うより、2年間「独りで保険診療のできる新人医師を作らない」ことにより、医師の人数を減らすための国の作戦である。
もちろん表向きは違う。すべての研修医に代表的な内科・外科・救急などをローテート研修させ、研修終了後
には一人前の医師として「何でもこなせる医師を育成する」というのが表向きの理由である。
ところで、医学部では5年生で「臨床実習」と称して、全診療科を少人数でローテーションして実際の医療を学ぶことになっている。それまではすべて教科書
や講義室での「単なる勉強」であるが、例えば当科の臨床実習は、医師の指導の元に、直接患者さんの話を聞き「病歴」を取る実習、どの様に診断を進めるかの
指導、手術の見学、講義、小試験を行っている。短い時間であるが生の医療を体験させるのである。
話は戻って、「現在の研修医制度」は、この学生時代の「臨床実習」を各科あたり1〜3ヶ月ローテーションして、「新人医師として」見学しながら体験する
のであって、まぁおおよそ見学の域を出ない。
最長3ヶ月すればまた別の科に移るので、なかなか真剣になれない、と言うより、実際の仕事の手伝いをするだけ
で、本当のところは全く言って良いほど身に付いていない。
片や「研修医」を迎えて教育するこちらとしても、何せ人員不足で教育に手が回らないし、「研修医」を上手く「お客さん」として相手をしていないと、2年
先に自科に就職してくれないから、昔のような厳しい鍛錬はできない。
日本で言う「鉄は熱いうちに打て」は、本来の意味ではない、ということを聞いたことがあるが、それは別として、「若い内の苦労は買ってでもしろ」も同じ
で、医学部を卒業して医師国家試験に合格して「さあ、これからがんばるゾ」という2年間を、昔の研修医は、正に死にもの狂い以上の努力をして、がんばって
自分を鍛えてきた、のとは全く対照的に、現在の研修医は、危機感を感じることもなく、ダラダラと過ごしているのである。
その間に学んだ最大の智恵は、小児科・産科・救急・外科などの「しんどい」ところは避けて、いかに楽できる科を選ぶか、の知識を身につけて、2年間の研
修医を過ごすのである。
おそらく、これから日本の医療はどんどん落ちていく。
・・・それでは、どうしたら良いか・・・と言うと、
なるべく早くかつての研修医制度に戻すべきである。
今の研修医制度で育った医師が大多数を占める前に、かつての制度に戻すべきである。今の研修医制度は、少なくとも「患者さん」にとってはろくなことがな
い。当然の結果として、日本人の寿命も短くなる。人口の高齢化に対して少しは歯止めとして働くだろう。よって医療費も減る。物の見事に国の作戦は成功する
のだが・・・・
しかし、こんなアホな話はない。
1年でも早く旧制度の状態にすべきである。