兵庫医科大学
皮膚科学教室
伊藤孝明のページ
このページは本学5年生実習のためのものです。患者さん向けの内容
ではありません。
【下肢静脈瘤・うっ滞性潰瘍の患者さん】
問診が重要です。静脈瘤は1次性静脈瘤と2次性静脈瘤に大別できますが、この2つは治療法が全く違いますが、視診では全く同じということが少な
くありません。
しかし、この重要な鑑別診断に、問診がとても役立ちます。
【問診】
まず、いつから、どこに、どういう皮疹(静脈の怒張も皮疹と同様)が出来たか?
今まで、どの様な治療をしたか?どの様な医療をどこで受けたか?
静脈瘤・下腿潰瘍では、とくに「夜間就寝中のこむら返りの有無・頻度」と「夕方の下肢の腫れ・だるさ」を詳しく聞いておくことです。
既往歴も重要で、婦人科疾患、悪性腫瘍や全身麻酔下の手術の既往、下肢〜足の骨折・下肢固定の既往、股関節・膝関節の人工関節置換術の既往があ
れば、2次性静脈瘤(深部静脈血栓症の後遺症)を疑わなくてはなりません。
家族歴では、血縁者に下肢静脈瘤はないか?(当科では兄弟・姉妹・親子に静脈瘤手術を行っている方々も多いです)。
【下肢静脈瘤・うっ滞性潰瘍の診察】
予診のカルテ記載を元に、改めて病歴を聴いていきます。下肢の静脈疾患では、初診時から、下半身は巻きスカートに着替えてもらいますので、話を
聴きながら、下肢を視診・触診します。
下腿に湿疹・潰瘍がある場合、この部位によって、おおよその原因静脈の見当をつけることが出来ます。内果や下腿前面に湿疹・潰瘍のある場合は、
大伏在静
脈不全を、外果に湿疹・潰瘍のある場合は、小伏在静脈の弁不全を、この両方にある場合、全周性にみられる場合は、大・小両方の静脈弁不全か深部静
脈不全
(深部静脈閉塞や弁不全)を疑いつつ、診察を進めます。
次に、患者さんには、立位になってもらって、さらに視診・触診と下肢表在静脈の「ドプラ聴診」を行います。
下腿潰瘍が大きな患者さんでは、最初は処置台で潰瘍の診察から始める場合もありますが、それでも、そのあとは支えてでも立位で視診・触診・ドプ
ラ聴診をします。
【ドプラ聴診とは】
ドプラ聴診器を用いて、血流の聴診を行う診察法です。私は、おそらく日本で一番、このドプラ聴診器を駆使して診察している皮膚科医だと思います
ので、何をやっているのかを観て、聴いて下さい。
私は普段2つのドプラ聴診器を用意して診察しています。
1つは、もう随分古い製品ですが、聴診専用の製品で感度と音質が良好です。
もう1つは、感度・音質は並ですが、血流の方向を検知して液晶に表示できる製品です。
どちらも「hadeco」ブランド、川崎市の林電気製です。
立位静止位での、下肢の表在静脈のドプラ聴診による血流音は、「全く何も聴こえない」のが正常です。下腿〜足部の静脈還流は、9割は深部静脈を
介して心臓に戻るので、表在静脈は、「ほぼ流れていない」のが正常なのです。
表在静脈の走行が判りにくいときは、膝近くにゼリーをたっぷり付けたドプラプローブを保持して(皮膚を圧迫してはいけない)、下腿部末梢を揉み
ながら(ミルキング法)聴診して静脈の位置を確認します。
その下腿末梢を圧迫した時に、膝付近の表在静脈を心臓向きに流れる音を聴取するのは当たり前ですが、患者さんが静止している限り、何も聴こえな
いのが正常です。
一方、1次性下肢静脈瘤では、大伏在型静脈瘤では大伏在静脈とその分枝で、小伏在型静脈瘤では小伏在静脈とその分枝で、下腿末梢部の圧迫を解除
した時に、逆流音が「ザー」と聴けるので、これが聴けると表在静脈の弁不全と診断できるのです。
実際には、まずはじめに、検者が下腿末梢部を圧迫しますから、「ザッ」(用手的上向音)が聴こえて、圧迫を解除すると「ザーー」(弁不全による
逆流音)
と逆流音がきこえたら、その静脈の弁不全で、多くの場合1次性静脈瘤です。しかし慢性期の2次性静脈瘤でも深部静脈の再疎通や深部静脈周囲に側副
血行路が
発達した場合では、同様に聴こえます。
次に、患者さんに腹圧をかけてもらいます(バルサルバ法)。腹圧をかけるだけでさらに逆流音が聴ける場合は、静脈弁不全が高度と判断できます。
さらにドプラ聴診器のプローブをそのまま保持して、腹圧を解除してもらいます。この腹圧の解除で、深部静脈が良好に開存している場合は、何も聞
こえませ
んが、深部静脈の流れが悪い場合は、小さく「サー」と上向音が聴こえます。これが上向音か逆流音かが判らない場合があり、血流方向検知型のドプラ
聴診器で
確認します。
ただし、前述のドプラ聴診で、何も聴こえず、かつ伏在静脈をよく触診でき、その下肢全体が腫脹している場合は、急性期の深部静脈血栓症
(DVT)を疑っ
て、緊急造影CT検査を行うべきですが、緊急CTの連絡をしながら、血液検査でD-dimer、CRP、WBCと、造影しますのでBUNとCRN
を調べ
て、時間があれば下肢静脈エコー検査も行います。この場合は下肢の広範囲のDVTのことがあり、緊急入院の準備も必要です。
【下腿静脈うっ滞性疾患の治療】
急性期のDVTでなければ、1次性静脈瘤でも2次性静脈瘤でも、圧迫療法が第一選択の治療です。
うっ滞性湿疹がある場合は、ステロイド外用薬を外用して圧迫療法を、潰瘍のある場合は、局所処置を行って圧迫療法を行います。
圧迫療法は、弾性ストッキングか弾性包帯を用いますが、潰瘍のある場合は弾性包帯の方が使い易いです。
弾性ストッキングは、足から大腿部までのストッキングタイプ、足から膝までのハイソックスタイプがありますが、小伏在型では後者で充分治療出来
ます。
患者さんに手術希望がある場合は、当科ではMRI静脈撮影検査を予約します。
また、初診日に時間的余裕があれば、空気脈波検査(APG)を行い、静脈還流の程度を評価します。
【当科での下肢静脈瘤の手術】
1次性静脈瘤に行う下肢静脈瘤手術には、逆流を止める「高位結紮術」と逆流静脈を抜き取る「静脈抜去術(ストリッピング手術)」があります。
手術は、日帰りでは行っていません。静脈瘤手術は必ず入院(主に短期入院)で行っています。
2011年より保険適応になった「血管内レーザー治療法」は当科では行っていません。 また、硬化療法も行っていません。