平成24年度3年生伊藤講義
10月16日(火) 1限目
質問一覧

悪性黒色腫の初期の鑑別(12ミリ程度)は難しいことですか?(難しいとは、経験が浅かった研修医 ではできないということです)

・難しいです。研修医だけでなく、ずっと皮膚科医をしていても、1〜2ミリの悪性黒色腫とホクロ (母斑細胞母斑)は、鑑別が難しい、またはできない場合がある。そのためダーモスコピー検査を行うが、これでも鑑別の難しい場合がある。

悪性黒色腫の手術について、兵庫医大では部分麻酔で行い、他ではよく全身麻酔で行うとおっしゃっていました が、この手術におけるそれぞれの麻酔の利点と欠点があれば知りたいです。特に兵庫医大が他とは異なる部分麻酔で行う理由があれば知りたいで す。
・悪性黒色腫に限らず、兵庫医大皮膚科での手術では局所麻酔で行うことが多い。理由は沢山あるが、 全身麻酔は最近とても安全に行える様になってい るが、それでも麻酔合併症の頻度は局所麻酔に比べて多い。全身麻酔は免疫力の低下を来す可能性があり、腫瘍免疫の点からも不利であると考えているため。
局所麻酔の欠点は、局所注射で麻酔を行うので、注射の刺入、局所麻酔剤の注入による痛みが最も欠点である。一番細い注射針を用いて、針は素早 く刺 して、麻酔薬は一定の速度でゆっくりと注射していくと、痛みは少ない。・・・しかし、痛いのは痛い。
医療経済的には局所麻酔は、麻酔料金を徴収できないため非常に病院にとっては不利である。しかし、患者さんには医療費が安くなるので良いが。
当科では、絶対に全身麻酔でないとできない手術を除く、すべて手術は局所麻酔で行うことにしている。


私は、小学生のころ(10年前ぐらい)に足 の裏にホクロがありました。現在は消えてしまったのですが、もう気にしなくてもよいのでしょうか?また、もう気にしなくて良いならなぜホクロ が消えたと考えられますか?
・ホクロは消えることがあります。色素が減っていくなどのためです。

骨が露出していると皮膚を移植できない理由

骨 膜が無いとなぜ植皮できないのですか?

・遊離植皮では、植えた皮膚に血行が再開しないと壊死してしまう。植皮した直後はプラズマ 環流によって皮膚は保たれるが、その後に血行再開しない と壊死する。骨の表面には血行再開が生じるような血流が無いため、植えた植皮は着かない。骨膜があると、微小血管が存在するため皮膚は生着する。ただし、 頭蓋骨では、とても薄い分層植皮なら生着することもある。骨表面の血流が他の骨に比べて多いためである。

皮膚の伸びやすさに個人差があるような気がするのですが見た目等でわかるのでしょうか?(皮弁の話です)
・年齢、部位、皮膚の状態によって変わってくるので、視診・ 触診して、皮弁のかたちを決めている。

10月16日(火)2限目
質問一覧

父親 はいつも靴下を履いている部分だけ、すね毛がなくなり生えてこなくなりました。どれくらい血流が少なくなるとこのようなことが起きるのでしょうか。

「すね毛が抜けること」によって疑われることは、血流低下以外に何かありますか?
何で毛が生えてこないのでしょう か?
・靴下やサポータで皮膚表面が擦過されることで、すね毛の抜けることはよくあります。まず趾毛をみ て、これが全くなく(成人男性ではほとんど趾毛はある)、かつ下腿のある部分から末梢に毛がない場合には、高度の虚血であることが多いので す。趾末梢の潰瘍や足部の冷感を伴っていれば、末梢循環障害を疑い、足動脈(足背動脈と後脛骨動脈)を触診して、これらが触れなければ、虚血 です。どの程度血流が無くなるとすね毛が抜けるか?は個人差が多いと思いますが、ABIが0.5以下だと思います。

授業で足に血が巡っていないのであ る部分から下の方は体毛が生えていないとおっしゃっていましたがそれは上肢にも見られるのですか?
・上肢は、下肢に比べて虚血による症状の出る割合が少ないため、上肢ではほ とんど無いと思います。心臓から上肢の先端(指)までの距離が、下肢の先端(趾)までの距離に比べて短いためです。

足趾を切断するとなぜその部分が丸 くなって傷が閉じるのでしょうか?何か再生過程が働いているのでしょうか?
・外傷での切断や虚血など疾患による切断の場合でも、
骨を切ったり削ったりして、切断端を丸く皮膚を縫合できる様にしているためです。

「動脈硬化において実際の血圧より高い値がでる」とういうのは、血管壁が固くなりマンシェットによる圧迫に抵抗すると いうことでしょうか?そもそも高血圧だから動脈硬化になり、動脈硬化があると血圧が高くなるのは当然では ないでしょうか?それよりもさらに高い値がでるといおうことでしょうか?
・一般的な上腕や下腿末梢部にマンシェットを巻いて空気で動脈を圧迫して血圧を測定する方法は、間 接的動脈圧測定と言います(直接的動脈圧測定とは、動脈を穿刺して動脈内圧を測る方法です)。血管壁が固くなり(主に動脈の中膜の硬化や石灰 化)、マンシェットの圧がかかっても、動脈が充分閉塞するには、マンシェット内圧が実際の動脈圧より高くならないと閉塞しないため、実際の血 圧よりも高い値として測定されてしまうためです。

糖尿病ではなぜ足に病変が起こることが多いのでしょうか?傷を作るのは手も多 いような気がするのですが。
・虚血について考えると、上肢より下肢の方が到達するまでの動脈の距離が長いため、閉塞しやす いから。神経障害の存在が足の方が判りにくいこと。糖尿病性網膜症のために、自分で見て手より足の変化が判りにくいこと、などが挙げられ ます。
 

リスフラン関節での切断がメジャーではない理由

・「メジャー」という言葉を講義では使いませんでしたが、これを「多いこと」と理解する と、リスフラン関節離断は、足関節の内反変形が生じるため整形外科医はこれを行うことが少ないから、一般的には多い切断ではないかもしれ ません。下肢・足切断の話を するとき、「メジャー切断(大切断)」=大腿や下腿切断のこと、とか「マイナー切断(小切断)」=足関節より末梢での切断などのこと、と いう言葉を使いますので、文頭に「メジャー」の説明を書きました。

糖 尿病性皮膚潰瘍や伏在型静脈瘤などにおいて、テキストにのっているような症状(皮膚が真っ黒で広範囲に潰瘍)になるのは、皮膚に異変が出てか らどれくらいの時間が経ったものなのでしょうか?素人の目では、かなりの時間が経たないとあそこまでひどくはならないように思えました。
・急性動脈閉塞の場合は短期間(数日)で潰瘍が生じるまでに至るが、糖尿病性潰瘍は何年単位、 動脈硬化性潰瘍では、細くなった動脈にスポンと血栓が詰まらなければ、この場合も何年単位という時間です。伏在型静脈瘤による潰瘍は、静 脈瘤を放置していて、これに小外傷(下腿を打撲する)などが加わって、潰瘍が生じてこれが拡大していく形となるため、何十年単位での放置 で潰瘍になります。

下 肢の静脈瘤について、硬化療法やストリッピングで静脈をとってしまったりして、その後浮腫とか血行は改善されるのですか?
・硬化療法は静脈を取るのではなく詰めてしまう方法。これら静脈還流障害を 改善する目的の「静脈瘤手術」を行うと、浮腫が改善される。しかし深部静脈弁不全を伴っている場合は、静脈瘤手術を行っても、弾性ストッキン グなどを用いた圧迫療法を行わないと、腫脹は改善されない場合もある。

下 肢静脈瘤は放置すると潰瘍になるのに良性疾患で手術は本人の希望でしか行わないのはなぜですか?(夏の屋外プールやスポーツクラブに行くと下 肢静脈瘤のある人をよく見かけますが…)
・静脈瘤手術を行わなくても、弾性ストッキングや弾性包帯を用いた圧迫療法をきっちりすれば、 潰瘍が生じるのを防げたり、潰瘍を治癒させることができるためです。

下肢静脈瘤に対する圧迫療法について手術後に弾性ストッキングがよく使われていますが、手術の後に圧迫 して逆に血流が悪くならないのですか?
・「血流が悪い」というのは、一般的には動脈血流のことですが、下肢の 動脈圧が正常ならば、血流は悪くならない。下肢の動脈圧が低い場合は、血流が悪くなる場合もある。よって、動脈狭窄を伴っている下肢静脈疾患 (静脈瘤や深部静脈血栓症や血栓後遺症)の患者さんでは注意が必要。

DVTはなぜ左側に多いのですか?
・解剖学で習っていると思うが、腹部大動脈は正中より左にあり、下大静脈は右に位置している。 これらが左右の総腸骨動脈・総腸骨静脈に分岐して下肢に向かう(静脈は戻って くる)が、左の総腸骨静脈は、右の総腸骨動脈によって正常でも圧迫されている。このため、左の総腸骨静脈の内腔は狭窄しており、左下肢の静脈 還流は右に比べて悪い=うっ滞し易い。そのため左下肢にDVTができやすい。

な ぜ欧米の方は、DVTを日本よりしっかり診断で きるのですか?
・欧米の医師の方がしっかり診断できているかどうかは不明。黄色人種の方 が、下肢静脈瘤やDVTは少なかった。かつて日本人には太って いる人が多くなかったが、最近肥満が多い。肥満では静脈還流が悪くなるので、静脈疾患が多い。白人はかつてから肥満が多い。そのため静脈疾患が多 い。その地域の医師は多くの静脈疾患患者を診ている。
日本人は欧米人より肥満が少なく静脈疾患患者数が少なかったので、医学教育においても重要視してこなかったため、診断力が低い。たぶんDVT につ いて皮膚科で講義しているのは兵庫医大だけだと思う(日本人においても静脈疾患が増えているが、皮膚科医に興味のある医師が少ないことも原因)。

例えば、金芳堂の「皮膚科学:第7版」の195ページの下のSideMemoには、「欧州の皮膚科 は150〜200床を有するが、その1/4〜1/5近くが下腿潰瘍の患者であることもまれではない」と記載されている。日本には150床を越 える皮膚科の病院はない(当科は10床)が、当科では入院患者の半数が下腿〜足潰瘍の患者さんであることもあったりする。