医療とコンピュータ

「ネット情報の信頼性」

 ネットで医療や医学、病気の話などいろいろと検索してみると、実に沢山の情報が得られます。
 ところがそれらが正しいしいか?、というと疑問です。
 もっと言えば、新聞報道されているように、某国の研究者のデータねつ造や近畿圏の某大学医学部のデータねつ造疑いなど、比較的信頼されていると思われて いた学術誌や研究機関からも正しくないと思われる情報が発信されていることが判りました。
 これらの大きな問題は別として、ネット上の医療・医学情報は、はっきり言って「正しいものも、正しくないもの」もあります。

 それでは、うまい情報の仕入れ方ですが、変な言い方ですが、自分にとって都合の良い1つ2つの情報を信じるより、同じ内容について記載している複数の情 報(10以上)を詳細に検討することと、正しいかもしれないと思った情報の反対意見的な情報がないかを調べるのが良いと思います(反対意見が正しいかどう かの評価はやはり10以上の反対意見が一致した見解であるかどうかを調べなければなりません)。

 特に医療情報では、公的機関や大学、総合病院などや内容に関連する「学会」の公式ホームページから情報を得るか、私的なページであってもその記載者の所 属・名前が明記してあるものを信頼するのが良いと思います。
 もうひとつは、その記載者が、その内容について専門的に医療を行っているかどうかを確認するのが良いと思います(所属する病院・大学の公式ホームページ で確認します)。

 ネット上の医療情報を見ていると、大部分が正しくてそのページの中にある一部に間違いがある、ということも見かけます。こういう場合ついついその全てが 正しいと勘違いしがちです。

 私自身も、ホームページは随分前から公開していますが、時々質問メールやコメントを頂きます が、実は今回のブログに挑戦?した理由のひとつは、ブログで は、自分は正しいと思いながらでも万一誤った情報を発信しても、比較的気軽にコメントを頂けるのではないかと思ったことです。


「医療現場のコンピュータ」

 医療費請求システムは昭和時代から導入され ていたが、医療現場にコンピュータが導入されるようになって、15年くらい経過したでしょうか。
 診察室や病棟の詰所でコンピュータを使って検査を依頼(オーダー)するオーダリングシステムが平成に入った頃から全国の病院で導入検討され、ちょうどそ の頃私自身は、職場の業務を簡略化する目的で・・・ただそれだけの目的で、「大嫌いだったパソコン」を購入し、ただ単に診療支援用の目的でデータベースソ フトを購入した。
 目的は皮膚科での仕事の簡略化・省力化だけなので、目的とする部分の業務分析してその当時行っていた重複作業や手書き作業をパソコンにやらせて、本来の 医療業務の時間をより多く確保するのが目的であった。
 思いついてからそれが完全な業務システムになるまで約半年を要したが飛躍的に作業効率が上がった。具体的には患者さんの病状経過を記録した写真を整理す るシステムであり、この導入で写真整理の時間は約十分の一に短縮された。いくつかの大学病院の皮膚科でこのシステムを真似て頂いて便利になったと喜んでも らった。

 同時に私の大学・病院の中でも、「皮膚科ではパソコンを有効利用してるよ」と、当時の情報処理同好会で講演を頼まれたが、そんなこんなで、平成3年に我 が兵庫医大病院もコンピュータ化を考えようと私も提案し「コンピュータ小委員会」なるものが出来、初めての会合で私もその幹事の一人に任命された。そして 数年の検討の後、平成6年に第一期オーダリングシステム(病棟でのオーダリングシステム)が稼働することになった。
 しかし、稼働するまでの検討は大変も大変で、想像を絶する検討会の連続だった。
 思いだしただけでも疲れてきたので、今日はここまで。

「完成度の低い電子カルテ・オーダリングシステム」2006/7/23


 我が兵庫医大病院には、「電子カルテ」は導入されていない。
既に「オーダリングシステム」は導入され、現在のシステムは二世代目である。
「オーダリングシステム」とは、それまで伝票でやりとりしていた検査を診察室にあるパソコンから入力して、検査結果は検査器械から直接パソコンに送った り、今まで処方箋という紙に手書きで薬の処方を書いていたが、パソコンから入力して、それが院内薬局にデータが飛び薬を用意したり、医事会計の補助として データが飛んだりと、省力化に役立っている。

 しかし、これら医療用のシステムを「まじめに作ろうという姿勢」が、このシステムを作っているメーカーにはほとんどない。
 大手システムメーカーには、「医療システム専門」のチームはあるが、医療現場の実際をまるっきり知らないし、知ろうともしていない。
 医療者が使うこのシステムの先は、患者さんへの医療と直接繋がっているという意識がない。

 かつて、合計5年間ほど兵庫医大病院のシステムを作るときに、大手コンピュータシステム会社の、システムエンジニア達と関わってきたが、あきれかえっ た。
 医療者に使い易いシステムを作ることが、医療者の負担を軽減し、その結果として、本来である医療行為の質を高められる可能性があることを認識していな い。

 エンジニアの一番の問題点は、「はじめにコンピュータありき」であることだ。コンピュータにこういうことができるので、これを医療に使って儲けよう、と いう発想である。

 これは根本的に大間違いで、「はじめに医療ありき」でなければならない。「医療現場が、この様に動いているので、これをどのようにして支援していく」、 という「普通の発想」でシステムを組み上げていかなければならないのに、そういうことは考えていない。

 まず考えなければいけないのは、医療の開始点は、医師と患者さんとの意思疎通である。この人間関係の形成に、医者はパソコンの画面かキーボードばかり見 ているのでは、話にならない。

 要するに、システムが医療の邪魔をしている、ということを出発点に発想を始めなければならないということだ。

 アメリカはオーダリングシステムや電子カルテの先進国の様だが、(格差が激しいので一部だと思うが)、パソコンに向かって入力するのは、診察する医師で はなくて、入力のための事務員を雇って入力させているらしい。
 この様にすれば理想的であるが、これは日本においてはもう全く実現不可能な話である。

 良い医療のためには、電子カルテ化は行うべきではない。
 または、良い医療を行うための電子カルテを検討すべきである。