母斑・母斑症
 兵庫医科大学3年生皮膚科講義
兵庫医科大学皮膚科学 教室 伊藤孝明  
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この講義内容は平成17年度まで南講師が講義していた範囲です。

母斑の定義
Unna :遺伝的または胎生的素因に基づき、生涯の様々な時期に出現し、極めて徐々に発育し、かつ色調あるいは形の異常を主体とする限局性の皮膚奇形。
Pinkus:先天性と考えられる皮膚の限局性の安定した奇形。皮膚器官の正常な成熟した構成成分の一つ、あるいはいくつかの局所性過剰     からなっている。
川  村 :母斑は皮膚の組織奇形であって、多少とも動きを示すもの。

「母斑とは、アザのこと」である。「アザとは、皮膚の奇形のこと」である。よって「母斑とは、皮膚の奇形のこと」

母斑とは先天性と考えられる皮膚の奇形であり、以下の三つのものに分けられる。
 1. 1つの細胞が増加(減少)したもの   ・・・・母斑細胞母斑、青色母斑、太田母斑
 2. 1つの器官が増加(減少)したもの   ・・・・単純性血管腫、苺状血管腫
 3. 複数の器官が増加(減少)したもの   ・・・・脂腺母斑(類器官母斑)


 1.母斑細胞性母斑(色素性母斑)・・・いわゆるホクロの 大部分がこれ。

 大きいものは「くろあざ」と呼ばれ、小さいものは「ホクロ」と呼ばれる。
 胎生期に神経堤(neural crest)を原基として、メラノサイト(色素細胞)にもシュワン細胞にもなりきれない分化能力不十分な細胞が生じ、これを芽細胞として構成されたもの

 小型のもの(直径6mm以下)が多い。
 円形あるいは類円形で境界明瞭、多少隆起することもある。
 褐色〜黒色で色調はほぼ均一。

 母斑細胞性母斑は、皮膚癌(悪性黒色腫・基底細胞癌)に似ていることがある。
 悪性黒色腫・基底細胞癌は、母斑細胞性母斑に似ていることがある。
 いわゆる「ホクロの癌」とは、ホクロ=母斑細胞母斑が悪性化するのではなくて、これらの癌の早期がホクロに似ているためにこの様に呼ばれるだけである。

※分離母斑:胎児の眼瞼は胎生9〜10週までは閉じている。15週より開き始めると言われている。分離母斑があるということは、眼瞼が開く前に既にホクロ になると運命づけられている、ということ。

※獣皮様母斑=(先天性)有毛性巨大色素性母斑は悪性黒色腫の発生母地になり得るので摘出すべき。

 2.青色母斑

 青色母斑細胞が真皮内で増殖したもの。
 青色母斑細胞は胎生期の神経堤から発生したもので、母斑細胞よりメラノサイトに近い方に分化した細胞。
 直径10mm以内の青色の小結節。

 3.太田母斑

 三叉神経第1・2枝領域の通常片側性に生じる青褐色斑。(顔面の前額部・こめ かみ・上下眼瞼・頬部などに出現する)。真皮内のメラノサイトの増加。眼球メラノーシスを伴うこともある。
 治療は、レーザー照射(ルビーレーザーなど)。かつてはドライアイス治療。

※伊藤母斑: 肩・上背部・鎖骨部・上腕部にかけて通常片側性の青色班と点状茶褐色斑が混在する。 女児に多い。通常自然消褪はない。

※蒙古斑:「未熟だ」という意味で「ケツが青い」と言うのは蒙古斑のことだとい われている。
 黄色人種の臀部や背中に見られる青いあざ。白色および黒色人種では稀。日本人 の90%以上の人に発生。通常は5〜6歳までに自然消失、大人まで残る人が2〜3%。特に臀部以外にできた異所性蒙古斑は、自然消褪はほとんどない。よっ て蒙古斑は経過観察で、異所性蒙古斑の治療はレーザー照射。白人にはほぼないので白人の医者は知らない・・・幼児虐待と間違われたことがあるらしい。
 アイヌの人たちは蒙古斑のことを「カムイテッコッ」、つまり神の手の跡と言っ たらしい。あの青いあざ、はこの世に生まれるときに神様が押してくれた名残り・・・だとさ。


 4.単純性血管腫(あかあざ)

 出生時より認められる皮面と同高の赤色斑(顔面や頭部のものは加齢により隆起 してくることもある)
 真皮毛細血管の増加と拡張
 治療はレーザー照射(ダイレーザー)

※レーザー治療について
 色のある光線は、それと反対色に吸収されやすいため、ルビー色の光線は青い病変に吸収される。
メラニン色素に最適波長であるルビー光線は、メラニン色素に選択的に吸収され、それが熱エネルギーに変換され色素を分解し色調が消失する。 赤血球に対して最適吸収波長であるダイレーザーは、赤血球に選択的に吸収され、熱エネルギーに変換されて血管内で溶血・塞栓を起こし、血管を破壊する。



 5.いちご状血管腫

 生後まもなく出現する。
 初めは平坦な赤色の斑状病変→徐々にもり上がり増大する(苺のようになる)。
 毛細血管の増加と拡張、血管内皮細胞の増殖。
 自然消退がある(とされている)。
 レーザー治療(ダイレーザー)

 
※カサバッハメリット症候群:巨大血管腫内の腫瘍内出血を繰り返し、出血を止めようとして血小板やフィブリノゲンなどの止血細胞や血漿蛋 白が消費されてDICが生じる。・・・皮膚腫瘍の講義で説明します。

 6.脂腺母斑(類器官母斑)


 脂腺のみならず、表皮や他の皮膚付属器、真皮を含む多くの皮膚構成成分が関与する。
 頭部に好発する。
 生下時は脱毛斑(大きさ、形は様々)として認められる
         ↓
 徐々に黄色調を呈し、隆起してくる
         ↓
 加齢と共に二次性腫瘍が高率に発生する

※かつては、二次性腫瘍として基底細胞癌が高率に発生すると言われていた。



母斑症の定義

皮膚・中枢神経・視覚器・内臓諸臓器に過誤腫性病変をおこす(遺伝性家族性)疾患群。
・・・症状が母斑(皮膚の奇形)だけにとどまらず、皮膚以外の色々な臓器にも病変が生じ、これらがまとまった症候を呈して疾患単位を形成したもの。


 1.神経線維腫症(フォン レクリングハウゼン病

・・・NF1:突然変異、NF2:常染色体優性、半数は突然変異
 a 神経線維腫
   ・思春期頃より発生し、徐々に増大、増数してくる
   ・常色あるいは淡紅色の柔らかい大小様々な腫瘤
 b カフェ・オ・レ斑
   ・手掌大までの大きさの褐色斑
   ・6個以上ある場合は本症を疑う
 c 若年性黄色肉芽腫
    ・2〜4歳の幼児にみられる大豆大までの小結節
      ・1〜2年で自然治癒する

 神経線維腫症における皮膚以外の臓器の病変
  骨病変 :側弯症など
  眼病変 :虹彩小結節(シュワン細胞由来の細胞の増殖)
  脳脊髄腫瘍:聴神経腫瘍


 2.神経皮膚黒色症

 胎生期において皮膚、中枢神経系のメラノブラストが異常に増殖する。
 皮膚では先天性の巨大もしくは播種性色素性母斑を生じる(悪性黒色腫の発生あり)。
 脳軟膜、中枢神経系では神経メラノーシスを生じる。
 生後1年以内に死亡することが多い。

 4.結節性硬化症

 常染色体優性遺伝
 Trias : 知能障害
     てんかん
     顔面の脂腺腫 
   

  結節性硬化症に出現する皮膚症状
  顔面の脂腺腫
   小児期より出現する淡黄褐色の多数の小結節
   病理組織学的には血管の増生を伴った結合織の増殖からなる肉芽腫様変化
  爪囲線維腫
   思春期以降に出現する爪囲の疣状の腫瘤
  粒起革様皮
   なめし革様のでこぼこした軽度隆起した局面
   組織学的には結合組織線維の増殖
  葉状白斑
   出生時から乳児期に出現する →早期診断に重要!
   長軸が皮膚割線方向に一致する葉状の白斑


 5.スタージ・ウェーバー症候群・・・遺伝形式は不明

 三叉神経第1,2枝領域の単純性血管腫
 眼症状・・・緑内障、牛眼(眼の血管腫により眼圧が上昇し出現する)
 てんかん発作・・・脳軟膜の石灰沈着(二重線状石灰化像)、血管腫


 6.クリッペル・トレノ(Klippel-Trenaunay)症候群

 1肢のポートワイン母斑
 静脈瘤
 軟部組織および骨の過形成

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物理的障害
外傷
熱傷
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