皮膚癌・皮膚悪性腫瘍
 兵庫医科大学3年生皮膚科講義
兵庫医科大学皮膚科学 教室 伊藤孝明  
平成20年度より、講義時間が少なくなりましたので、重要な部分のみ講義します。しか し・・・皮膚癌・皮膚悪性腫瘍はすべて重要ですが。
このページは、時々更新しています。
講義内容のページは頻繁に更新しま すので、再読込(リロード)して見てください。


皮膚癌の原因
 有棘細胞癌(SCC):前駆症のカテゴリー分類

表皮内癌または癌前駆症
 
日光角化症
 
皮角
 
Bowen病
 
紅色肥厚症
 
乳房外Paget病

皮膚癌・皮膚悪性腫瘍
 有棘細胞癌
 基底細胞癌
 悪性黒色腫
 隆起性皮膚線維肉腫
 悪性線推性組織球腫
 血管肉腫(悪性血管内皮細胞腫)
 悪性リンパ腫
 菌状息肉症
 Sezary症候群
 組織球症]

 
皮膚癌の原因

物理的 紫外線(人種、地域、好発部位、色素性乾皮症)、放射線(慢性放射線皮膚炎)、慢性炎症
化学的 ヒ素(地域、慢性ヒ素中毒)、コールタール(職業)
ウイルス ヒト乳頭腫ウイルス(疣贅状表皮発育異常症)、へルペスウイルス



 紫外線により皮膚に好発する癌には、基底細胞癌、有棘細胞癌、黒色表皮腫があり、最も多い癌は基底細胞癌、次いで有棘細胞癌です。高齢者に多く皮膚癌の 発生には生涯浴びる紫外線量が関与。皮膚症状は日光がよく当たる頬部、耳、下唇、手背などに多くみられ皮膚がザラザラして厚みが増し、イボのような角状の 突起が発生してきたり、ホクロ様のものが大きくなり、潰瘍となったりすることもあります。
 癌のり患率調査によると日本人では人口10万人当たり約10人、米国の白人は232人、黒人は3.4人、オーストラリアの白人は800人と報告されてい ます。オゾン層が破壊され、有害な紫外線であるUVBがさらに増加すると予測される今、過剰な日焼けには注意が必要です。

皮膚癌の説明(国立大阪病院皮膚科)
http://www.onh.go.jp/seisaku/cancer/kakusyu/hifu.html



有棘細胞癌(SCC):前駆症のカテゴリー分類

第1群:SCCを生じやすい局所的な準備状態
  熱傷瘢痕,慢性放射線皮庸炎,骨髄炎瘻孔,尋常性狼瘡,褥瘡,慢性円板状エリテマトーデス,温熱性紅斑,栄養障害型表皮水疱症など

第2群:SCC in situないしはその早期病変
   Bowen病,日光角化症,放射線角化症,白板症,ヒ素角化症,温熱性角化症など

第3群:SCCなどの皮膚癌を生じやすい全身的状態  
    先天性疾患:色素性乾皮症,疣贅状表皮発育異常症,ウェルナー症候群など
    後天性疾患:慢性ヒ素中毒,臓器移植患者,AIDSなど


表皮内癌または癌前駆症

日 光角化症(同義語:老人性角化症)
 定義 老人の顔面,手背など,露光部に生じる狭義前癌症
 原因 紫外線
 病理 表皮内有棘細胞癌の所見(肥厚型,萎縮型,類Bowen型,棘融解型に分類)
 症状 顔面,手背にみられる紅褐色局面,鱗屑が付着 
 予後 有棘細胞癌への移行が極々起こる(20〜25%)
 治療 切除 凍結療法 局所化学療法(5FU軟膏・ブレオマイシン軟膏の外用)


 フロンガスによるオゾン層の破壊が社会問題化してから久し い。オゾン層が1%減少すると、有害紫外線が2%増加し、皮膚がん発生率が2%〜3%増加するといわれている。

紫外線と皮膚癌(大阪皮膚科医会ホームページ)http://www5a.biglobe.ne.jp/~oskhifu/info/14uv.html
紫外線と皮膚癌(竹之内辰也先生)http://www.niigata-cc.jp/contents/disease/ishi/Ishi42_2/Ishi42_2_01.pdf


 付 
 皮角:角状の硬い角質を主徴とした腫瘍
    組織学的には
     日光角化症,尋常性疣贅,脂漏性角化症,ケラトアカントーマ,有棘細胞癌などさまざま




Bowen 病
 定義 皮膚粘膜の表皮内癌 特有の病理組織所見を有する
 原因 多発性Bowen病ではヒ素が原因とされる  
   ※ 内臓悪性腫瘍の合併率が高い
 病理 表皮の不規則な肥厚 上皮性多核巨細胞 核分裂像 個細胞角化
 症状 境界鮮明な紅褐色局面,鱗屑が付着 体幹・四肢など被覆部位に好発
 治療 切除 凍結療法 局所化学療法

 ヒ素摂取(事件や井戸水)などで、ヒ素角化症が生じ、多発性ボーエン病の原因とな りうる。



 紅色肥厚症
  Bowen病が陰茎亀頭部,女性外陰部,口腔粘膜などに生じたもの
  表面がビロード状を示す

                                  右は口腔粘膜の紅色肥厚症

 


Paget病
 乳房Paget病と乳房外Paget病に分けられる
 乳房Paget病は乳管癌の表皮向性癌との考えがとられ,乳癌の一特異型とされている 皮膚科が主として取り扱うのは乳房外paget病である。

乳 房外Paget病
 外陰部,肛門部,まれに腋窩に発生する
 従来前癌性とみなされてきたが,予後は有棘細胞癌と同様でPaget癌としての取り扱いが必要
 症状 湿疹様紅斑や白斑として始まり,後に湿潤,びらん性局面を呈する。進行すると局面内に小腫瘤がみられ,所属リンパ節転移が触知される
     初期では湿疹と誤診されることがよくある。
  ※ 大腸・直腸癌,胃癌などが10%前後合併


 病理 表皮内および汗管,毛包内に明るい大型のPaget細胞が散在 性、あるいは集簇性に胞巣を形成。進行すると真皮内へ浸潤
 治療 病巣境界部より3cm以上離して広範囲切除

 典型的組織像としてのPaget細胞の組織診断も試験的に は重要になる時代が来るだろう。




皮膚癌(各論)

有 棘細胞癌
 原因 原因不明だが、紫外線、慢性刺激、慢性炎症、ウイルス、放射線などが関与
 症状 腫瘤,潰瘍。進行したものでは悪臭を伴う。領域リンパ節への転移はしばしば見られる。さらに進めば、肝,肺,骨などへの遠隔転移が生じる。
 病理 腫瘍化した表皮ケラチノサイトの真皮内への不規則な浸潤性増殖
   腫瘍細胞は大小不同,個細胞角化,癌真珠,核分裂像
 治療 手術 放射線療法,化学療法(ブレオマイシン,ペプロマイシン) 



ブレオマイシンについて(日経BP社)
http://biotech.nikkeibp.co.jp/MUSEUM/29.html


基 底細胞癌
 皮膚癌の中では最も多い。当科でも皮膚癌手術中で最多。約85%は顔面に生じる。
 一種の過誤腫で、転移は極めて稀。 局所侵襲性は強く骨まで浸潤する例も経験する。
 原因 不明。紫外線による光老化が関与?
 症状 基本的な型は黒褐色,蝋様光沢を有する結節で、拡大すると中心に潰瘍を伴う事が多い。
   @〜Eのようなさまざまな臨床形態をとる
 @結節潰瘍型 A瘢痕化扁平型 B表在型
 C斑状強皮症型 D破壊型 EPinkus型
  進行は緩徐で,遠隔転移は稀である。
 治療 手術療法



 典型的組織像としての基底細胞様細胞の柵状配列が試験的に は重要になる時代が来るだろう。



有棘細胞癌           
基底細胞癌


急速に増大 緩徐に増大
転移能を有する 局所破壊性、転移能に乏しい
日光裸露部に多い 約85%は顔面
異型有棘細胞の増殖
基底細胞に類似の細胞の増殖






悪 性黒色腫
 メラノサイト系の腫瘍 転移しやすく,悪性度の高い腫瘍
 皮膚,粘膜,眼のほか稀に脳軟膜に生じる
 病型分類 @結節型 A表在拡大型 B悪性黒子型 C末端黒子型
 病期分類・予後
    Level分類(Clark)
    tumor thickness(Breslow)

 腫瘍の部分的な生検や摘出は、禁忌とすべきである。
 治療 手術療法 化学療法(ダカルバジンDTIC) 免疫療法


 
慈恵医大皮膚科 上出良一先生のページへ

付 メラノーマと後天性色素性母斑の鑑別点
    Asymmetry
    Border
    Color
    Diameter





隆 起性皮膚線維肉腫
 中年以上の体幹や四肢に好発する
 しばしば半球状あるいは茸状に隆起する
 
 周辺組織内へ広範に侵入していることが多く、十分な切除範囲で 摘出しないと高率に再発する。
 腫瘍底部の摘出を充分に行う必要がある。
 転移することはほとんどない
       




悪 性線維性組織球腫
 成人の四肢近位部の骨格筋に好発する
 悪性度が高く、高率に再発する。腫瘍底部の摘出を充分に行う必要がある。
 転移が生じる
 






血 管肉腫(悪性血管内皮細胞腫)
 高齢者の前頭部から前額部に好発する
 悪性度がきわめて高い
 高率に局所再発し,血行性転移(肺転移など)を起こす

 治療:
 広範囲切除術,放射線治療
 インターロイキン2


皮膚悪性腫瘍中で最も悪性と言える。広範囲摘出+放射線治療でも予後悪 い。


悪性リンパ腫
 皮膚T細胞リンパ腫
 Cutaneus T−Cell lymphoma(CTCL)
 菌状息肉症
 Sezary症候群
 non-MF型CTCL
 成人T細胞白血病・リンパ腫
 皮膚B細胞リンパ腫



菌 状息肉症
 皮膚に原発する代表的なT細胞リンパ腫
 腫瘍細胞はhelper / inducerT細胞
 病期・臨床所見
 1)紅斑期   局面状類乾癬様皮疹が代表的皮疹
   :湿疹様皮疹が、軽快再発を繰り 返しながら症状が固定持続してゆく。数カ月〜数年におよびかゆみをともなう。
 2)局面期   扁平に隆起し,浸潤を触れる紅斑
   :皮疹が次第に扁平に隆起拡大。 この頃よりリンパ節の腫脹が現れ、ここまでで10年〜20年かかる。
 3)腫瘍期   浸潤局面上に結節、腫瘤を形成し自潰する
   :腫瘤の表面がつぶれると同時 に、肝臓や脾臓の腫れも顕著になり、この時期になると約1年位で死亡。

 病理 息肉症細胞   Pautrier微小膿瘍




Sezary症候群
 CTCLの1型
 腫瘍細胞は菌状息肉症と同様にhelper/inducerT細胞
 比較的高齢者に発症し,慢性に経過することが多い
 症状 紅皮症と表在リンパ節腫大
   末梢血中への異型リンパ球(Sezary細胞)の出現





組織球症]
 Langerhans細胞の増殖症で3病型に分けられる

1)Letterer−Siwe病
  乳児期に発症,予後不良
  紅斑,紫斑,小丘疹などの皮疹が広範に見られる

 2)hand−Schuller−Christian病
  幼小児期に生じ,眼球突出,尿病症,頭蓋骨の欠損が3主徴 黄色肉芽腫様皮疹が生じる

 3)好酸球性肉芽腫症 年長児から成人に発症  骨に肉芽腫様病変







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皮膚良性腫瘍
下肢静脈瘤
皮膚潰瘍
物理的障害
外傷
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